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オピニオン

●「ヘルシンキ便り(8)」2009年8月12日

 8月8−9日の週末を利用してスウェーデンのストックホルムに船で行ってきました。この旅行の目的は、スウェーデン王室のドロットニングホルム宮殿(Drottningholm)にある宮廷劇場(Slottsteater; The Court Theatre)で上演されたモンテヴェルデ(Claudio Monteverdi)のオペラ『ポッペアの載冠』(L’Incoronazione Di Poppea)を見ることです。

 この宮廷劇場は1764−66年に建築家カール・フレデリック・アデルクランツ(Carl Fredrick Adelcrantz)によって建設されたもので、女王ルヴィサ・ウルリカ(Lovisa Ulrika)から委託されたものです。ドロットニングホルム宮殿自体は1662年に建設されはじめたものです。この宮殿、劇場、庭園も含めて1991年にはユネスコの世界遺産に指定されています。しばらく前にNHKの世界遺産に関する番組で、この劇場のことを放映していたそうです。1981年以後はスウェーデン王室が日常的に使う宮廷として利用されているところです。

 この宮廷劇場が面白いのは、建設当時の劇場が管理維持されており、舞台装置も木製の歯車を手動で動かす仕組みがいまだに使われているということです。舞台の奥行きは20メートルあり、30シーンの舞台装置がそれぞれ10秒単位で入れ替えが可能なほどの高度な技術が使われているということです。家具や壁画なども全て建設当時の状態を維持する努力がなされています。歴史的には1792年に宮廷劇場でグスタフ3世が仮装舞踏会中に暗殺され、次第に利用されなくなり寂れていきましたが、1920年代より使われるようになり、1960年代に大規模な改修工事が行われ、現在では再び、宮廷劇場として活発に利用されているということです。

 そのおかげで、1642年頃に書かれたと言われるバロック・オペラ『ポッペアの戴冠』を、初演当時の舞台環境に近い形で見ることができるのです。オペラの簡単な内容はローマ皇帝ネロの妻オッタ-ヴィアをネロの愛人ポッペアが追放して正妻の座を射止め、戴冠式を行うというもので、いわいる宮廷劇ですが、当時のローマではまだ多神教的な考え方があったのでしょう、幸運の神、美徳の神、愛の神が登場し、愛の神の力によってポッペアが最終的に愛を得るという筋書きになっています。

 この宮廷劇場の18世紀の舞台装置が効果を発揮するのは、その神々が天から降りてくるところをゴンドラのような仕掛けで実現できるということです。これはモンテヴェルデの時代では画期的な試みだったのでしょう。その当時の劇場の様子がここドロットニングホルム宮廷劇場では実感できるのです。

 ストックホルムにはオペラ・カレッジや国立オペラ座があり、中世から現代に至るまでのオペラの教育と公演が本格的に行われています。今回の公演も中世バロック・オペラの雰囲気を良く出した大変質の高いものでした。

ヘルシンキとストックホルムを往復するのは約20年ぶり2回目ですが、以前と同じように船中で1泊する夜行汽船に乗ってきました。これは、いつも楽しい経験です。南ヨーロッパのギリシャの島巡りや地中海クルーズなどの特別な船旅はありますが、首都と首都を結ぶ一般的な定期便で、結構ゆったりとした船旅ができるのはこの路線ではないでしょうか(今はストックホルムからエストニアのタリン(Tallinn)行きの夜行便もあります)。

北村行伸@ヘルシンキ

 

ドロットニングホルム宮殿の海側(左)と庭園側(右)  helsinki8-1  helsinki8-2
宮廷劇場(左)とバルト海の日没(右)  helsinki8-3  helsinki8-4