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オピニオン

●「ケニア便り」2008年3月7日

 2007年12月の大統領選挙の結果を巡って、国内が2分されたケニアであるが、2008年2月末には元国連事務総長のコフィ・アナン氏が仲裁に入り、与党と野党の両派の連立内閣を組閣するということで一応の決着をみた。我々がケニアに入ったのはその直後の3月2日(日)であった。今回はJICAの技術支援プロジェクトの最終回ということで、これまでこのプロジェクトにずっと関わってきていただいた一橋大学商学部の小川英治先生と一緒に最終評価を兼ねて、集中セミナーをしにきた。今回のトピックは地域統合と公共政策というような内容で、小川先生が地域統合について話し、私が公共政策とくに財政について講義した。

 今回のケニア便りでは現在の政治的混乱に関して見聞きしたことを書いておきたい。2007年12月27日に行われた大統領選挙では、ライラ・オディンガ率いる野党が国会議員の議席では大幅にリードしていたにも関わらず、大統領選では与党ムワイ・キバキが唐突に当選宣言をし、それから数時間もおかずに大統領就任式を強行してしまったことに問題の発端があった。キバキ大統領はキクユ族の出身で政府内でもキクユ族出身者を優遇してきたことに、その他の部族の不満がたまっていたことが大きいと思われるが、同じくキクユ族出身の初代大統領のケニアッタ政権下でキクユ族の他部族居住地域への移植政策が行われ、それも他部族の不満の源泉になっていたと言われている。オディンガはルオー族の出身であり、ルオー族の支配している地域ではキクユ族の入植者を追放するなどの暴力行為が行われ、1500人以上の死者と30万人の難民が出ていると言われている。これはケニア独立以来最悪の政治的暴動である。

 3月6日にはケニア国会が開催され、キバキ大統領率いる政権与党とオディンガ率いる野党オレンジ民主運動との大連立政権が成立した。この連立政権構想の危うさは、我々が自民党と民主党の大連立の動きを見たときに感じたものと同じである。すなわち、健全な野党、対立軸を出す政党が無くなった議会政治は機能するのかという疑問である。実際、現在ケニアには野党は無くなったと言われている。現在のケニアの政治を見ていると、政治は国民に対して行っているというより、国連・IMFなどの国際機関および主要援助国に対して「行っているふり」をしているとしか思えない。国家運営のガバナンスおよび大統領をコントロールする仕組みが不在であり、国内の少数派の問題を取り上げる機構が消滅してしまったことが気懸かりでならない。

 民主主義というものは多数決を原理とするものだと思っている人が多いかもしれないが、少数意見の尊重という原理も同じぐらいか、あるいはそれ以上に重要なものである。大連立内閣で少数意見が認められなくなれば、サバンナでも小動物が生き残れるような生態系バランスが保たれているのに、それ以下の悲惨な事態に陥りかねない。政治的な再編成は不可避であり、この権力分担(power sharing)は長続きしないだろう。

北村行伸@ケニア