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オピニオン

●「ミラノ便り(1)」2007年10月17日

 ミラノのボッコーニ大学に集中講義をしに10月13日から28日まで2週間ほど滞在することになった。基本的な講義内容は1990年以後の日本経済の変動に関する問題を7回の講義で行うこととであるが、特に内容が決められているわけではないので、自分の好きなトピックではなせる。今回は、1990年代以後の日本の経済改革について政府の政策、企業の政策、金融界の再編成、労働市場の変化などについて、Steven K. Vogel(2006)Japan Remodeled, Cornell University Pressを教科書に使いながら論じることにした。  学生は経済・経営学を専攻する修士課程に属しており、日本経済については詳しい知識はない人たちなので、かなり基本的なことを話す必要がある。私はイタリア経済についてはほとんど何も知らないので、こちらからも教えてもらうつもりで話をしている。授業開始早々に、いくつか気づいた点がある。

 第一に、日本的な経済改革に時間がかかる点や労使協調を重視し、解雇や賃下げはできるだけ回避する傾向があるといった点には、きわめて理解を示し、むしろアングロサクソン流のドラスティックな改革にどのような利益があるのかわからないという反応であった。同じことをアメリカやイギリスの大学で話せば、何故日本はそんなに簡単な改革ができないのか、その結果、消費者はとんでもない不利益を被っているのにと声高に反論されそうだが、イタリアでは全くの肩透かしを食らったし、日本的改革に関しても違和感はなさそうであった。私がイタリアの経済改革の流れを知っていればもう少し面白い比較ができるのであろうが、今回はそこまで踏み込めなかった。

 第二に、これは授業の内容ではなく、教室の反響についてである。授業を行っているのは最近できたVelodromeと呼ばれている円形教室棟である。この教室棟のいくつかの教室を曜日時間帯に応じて使い分けているが、どの教室を使っても、マイクを使わないのに、声がすごく反響して大きく聞こえるということである。どうも円形劇場の伝統のあるイタリアでは教室の傾斜や円形の拡大の仕方によって、教壇での発声が反響しやすいように設計されているのではないかと思う。以前、ギリシャの円形劇場やローマ時代のコロッセウムの遺跡を見に行ったときに、舞台の声が反響してどの席にいてもよく聞こえた記憶があるが、全く同じ原理が生かされているように思い、ある種の感動を覚えた。もしかしたら、隠しマイクでもあるのかもしれないが、設計上の工夫であるとすれば、素晴らしいことだと思う。

 

北村行伸@ミラノ

 
ボッコーニ大学 bocconi2 bocconi1