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オピニオン

●「高速道路料金自動収受システム(ETC)の利用方法」 2004年1月22日 New

日本道路公団の民営化議論が迷走する中で、国土交通省と日本道路公団はETCを前倒しで導入し、利用者を拡大することに躍起になっているようである。これまで、ETCを導入しても料金が自動的に割り引かれる訳もでもなく、利用できる料金所ゲート数も限られていたために、ETC機を積んでも相変わらず手渡しで料金を払わざるを得ないということも多かった。それではETCを導入するインセンティブが利用者に出てくるはずがないと言わざるを得ない。

民主党がマニュフェストで高速道路の料金無料化を提言したことが影響しているのかどうかはわからないが、昨年秋よりETCゲートの前倒し設置が急速に行われている。とりあえず自動的に料金を徴収するシステムを導入するという既成事実を作っておこうという判断が見え見えのなりふり構わぬ行動である。

また、利用促進を進める目的で「ETC前払割引サービス」なるものがあるが、これは、そのサービスを受けるために事前登録し、一定額の前払い金を支払うと利用可能額まで高速道路が利用できるというもので、5万円を払うと5万8千円まで使える、すなわち約14%の割引になる。これは、利用者が利用に際して割り引いてもらうという、デパートやスーパーのカードとは違い、事前にお金を預けて、それを担保に14%分利子を払うというシステムであって、利用者にリスクを負わせている。これで利用者にインセンティブが与えられているとはとても考えられない。その上、手続きも結構煩雑であり、積極的に利用を促進しようというより、申し込んできたら割り引いてやるという態度なのである。

ETC機の導入促進策として、先着で特定数の人に5000円を割り引くという政策が発表されたが、これは自発的に導入した人とその割引きを利用した人との間の不平等感が残る、極めてまずい政策である。すなわち、先に導入した人には何の割引もなく高い機械を買わせ、後になって導入する人には割引を与え、機械を安くするというのであれば、新しいシステムの導入に際しては待っていた方が得であるという逆のインセンティブを与えてしまうことになるからである。

このような道路行政を行っている人たちの一連の迷走を見ていると、システムをうまく動かすインセンティブ・デザインが全く理解出来ていないことがよくわかる。このような朝令暮改的な裁量政策は極めて有害であることが経済学では動学的非整合性の問題としてよく知られている。ではこのシステムにインセンティブをつけるにはどうしたらいいのだろうか。

2004年1月19日付けの日経新聞にETCの多機能化を促進する検討会を始めるという記事が載っていたが、ここで、一つの利用方法を提案したい。

自動車事故で高速道路が渋滞した場合に、それに巻き込まれて数時間も無為に高速道路上でいらいらと時間を過ごした人は多いと思う。これに対して、これまで何ら金銭的な補償はなかったが、本質的には事故を起こしたドライバーが他の人に対して補償すべきものであろう。実際に、そのような補償ができるだろうか。ETCを使えば出来そうである。すなわち、高速道路に入って料金所を通過した時間の記録があれば、目的地(高速出口)までに平均的にかかる時間を大幅に超えた場合にはその程度に応じて料金を割り引けばいいのである。そして、その割り引いた額の合計を事故を起こした本人へ請求すればいいのである。

この場合割引は基本料金を超えても構わない。すなわち、負の料金になっても仕方がない。事故の責任者が払うので、その負担が道路公団にかかるわけではないので問題にはならない。よくあることだが、あまりにも高速道路で渋滞したために一般道路を使った方がよほど早く目的地に着けたという場合などは、高速料金を返還するだけではなく、迷惑料を払ってもらいたいということである。この額は、時間帯や交通量によってもその補償額は変動するが、一番交通量の多い午前8時から10時ぐらいに無謀な運転をした人は相当多額の補償金を払わなければならないということになり、事故も減り、交通渋滞も減少することが期待できる。

自然渋滞の場合でも、それが利用者に原因がある場合(盆暮れの帰省渋滞)には自己責任で割引はなしとしても、道路整備の不備で渋滞した場合には道路公団の責任ということである程度の割引をしてもいいのではないか。

このメカニズムは交通経済学者が主張する「高速料金を渋滞状況に応じて変動させれば、交通量を動かすことができるという、いわゆるピークロード・プライシング」よりもはるかに柔軟なシステムである。ここで用いたアイディアは公共経済学でいう外部経済の内部化をすれば、外部不経済の総量が減るということを利用したものである。

このように言うと高速出口ではETCが設置されていないのでそのようなシステムは難しいと反応する人が出てくることは容易に想像できるが、これだけ熱心にETCを導入したいのであれば、出口だけでなく、道路上のチェックポイントにも読みとりシステムを設置しておくのが、多機能の利用を考えると必須だと思われる。また、計算システムもこれまでに想定されていたものよりはるかに大量の処理が必要になるので、それに対応したシステムに拡大すべきである。

例えば、首都高速を深夜にスピード違反で暴走している車は、ETCで高速に入った時間だけをチェックするのではなく、途中でどのルートを通って、何キロぐらいのスピードで通過し、何時間ぐらい高速上にいたかがわかれば、その場で、違反料金をECTを通して徴収できるのではないだろうか。現行監視カメラで捉えてもすべての違反車にアクションを起こしている訳ではないが、ETCを使えばすべての違反車に対してリアルタイムで違反料金を徴収できる。

このようにインセンティブ・デザインの問題としてETCの利用を考えると、料金が自動的に割引かれるし(ETCを付けていなければその恩恵にあずかれない)、様々な交通ルール違反を抑制する機能としても作用できると考えられる。そして、なにより交通渋滞という、外部不経済を内部化することによって、多少なりとも時間コストが意識され、それが道路公団に対しても道路整備や安全性の確保の必要性を意識させることになれば、本当の意味での市場経済の効果が出てくるのではないかと考えられる。