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オピニオン

●「ロンドン便り(4)」2003年3月15日

 今回ロンドンに滞在することになり、仕事以外で最も楽しみにしていたことの一つに、オペラやバレー、コンサートに行くことがあります。現在、ロンドンはおそらくエンターテイメント、とりわけクラシック音楽のパフォーマンスの世界の中心になっており、無数の音楽会やオペラが毎晩開催されています。こちらの情報誌Time Outを買って、めぼしいコンサートやオペラ、バレーをチェックして、その劇場のインターネットのホームページに行って、そこでon-line-booking(インターネット予約)をすれば、後は当日、劇場の受付でチケットを受け取ればいいだけというシステムにだいたいの劇場はなっています。(おかげで(?)、ロンドンのいくつかの劇場のパトロンにされてしまいました)。

 日本のように人気のコンサートのチケットは軒並み売り切れということはあまりありません(もちろん人気のポップグループのコンサートではそういうこともあるようですが)。これは、とにかく、一日のうちに開催される催し物がオペラ最低2箇所、コンサート、芝居、ミュージカルなどは多数あるので、特に一つの出し物に人が集中するということがないためだと思われます。また、おそらく、イギリス人の性格を反映して、興味のある分野が分散しているために、日本のようにクラシック・コンサートなら、どこに行っても同じ人がいるということはないようです。

 チケットに関して唯一苦労するのはロイヤル・オペラ・ハウスのチケットです。これは、3ヶ月前にチケットが売り出され、ほとんどが売り切れになってしまいます。しかし、そこはイギリスのシステムで必ず毎日67席分だけ当日券が確保されていて(空いている席も毎日同じです)、コベント・ガーデン側のアーケードに朝の8時ごろに行って先着67番目までに並ぶと10時のオフィスの開始時にチケットを手に入れることが出来ます。これは、誰かの代理で一人が大量に購入できないように、一人一枚と決まっており、二人で行きたければ、二人で並ばなければなりません。日本なら、自分では行く気のないダフ屋も並んだりするかもしれませんが、我々の経験では、ほとんどの人が自分で行きたくて並んでいる人のようでした。このようにたまたま、ロンドンに来て、オペラを見たい人のためにも救済策があるというのは、非常に有難いことですし、朝早く起きていく努力をすれば、必ず正規料金でチケットが手に入るいいシステムだと思いました。

Waiting for seats

 因みに、なぜ当日券が67枚なのか、なぜ特定の席が空いているのか、その辺の事情については関心があるのですが、まだ解明していません。

 一般にこちらの物価はポンド高で、日本での購買力で約2倍というのが実感ですが、オペラやコンサートだけは別で、一番高いオペラでも20−100ポンドが相場で、20ポンドでも結構いい席がとれます。実際に、政府の補助金やローヤルファミリーをはじめとするパトロンからの援助でかなりの費用が賄われているのか、日本で4−5万円は当たり前のオペラ料金からすれば、格段に安くて、いい出し物を見ることができます。

 因みに、これまでの4週間で行った出し物について書いておきます。

(1)芝居 野田秀樹の「あかおに」(Red Damon)(2月15日(土)昼3:00−4:30)YoungVic劇場
 これはLSEの清滝夫妻のお勧めで、UCLの市村さん一家と一緒に見に行きました。野田秀樹がロンドンの小さな劇場で奮闘しているのには感心しましたが、劇そのものは洗練度、オリジナリティが足りないように思いました。

(2)オペラ モーツアルトの「魔笛」(2月17日(月)夜7:30−10:45)Royal Opera House(Covent Garden)
 これは、今回最初のコベント・ガーデンの出し物で、先に書いたように朝8時から並んでチケットを手に入れたものです。極めてクラシックな演出でしたが、間違いのなく上質のオペラでした。

(3)バレー リヨン・オペラ・バレー団 プロコフィエフ「シンデレラ」(2月19日夜7:30−9:00)Saddler's Wells劇場
 これは、フランスのリヨン・バレーの斬新なシンデレラでとても楽しめました。

(4)オペラ ベルリオールズ「トロイの勝利」(2月21日(金)夜8:00−10:00)English National Opera (ベルリオールズ生誕200年記念)
 これもトロイ戦争という題材を現代に持ち込んだ、極めてモダンな演出で、イングリッシュ・ナショナル・オペラでは全て英語で歌うことになているので、これもオペラというよりミュージカルを見ているような気になりました。しかし、内容はトロイ戦争に関してであり、今の世相をよく反映したものになっていました。

(5)コンサート コリン・デービス(指揮)ロンドン・シンフォニー・オーケストラ、ベルリオールズ「ロメオとジュリエット」(2月28日(金)夜7:30−9:00)Barbican Hall (ベルリオールズ生誕200年記念)
 これはコンサートに歌がついたもので、家内によれば、あまり上演されることのない題目だそうですが、ベルリオールズ生誕200年ということで、ベルリオールズを振らせたら世界一といわれているコリン・デービスの指揮で、非常に質の高いコンサートでした。

(6)バレー ロイヤル・バレー団 マスネ「マノン」(3月1日(土)夜7:00−9.30)The Royal Opera House
 これも朝8時に並んでチケットを手に入れました。実に官能的な演出で大人のバレーという感じでした。演出はきわめてクラシックでした。プリマのフランス人Sylvie Guillemはさすがに見事で、出てくるだけで拍手が出るほどの人気でした。

(7)歌 ジェーン・バーキン セルジュ・ギンズブール12回忌に捧げる(3月2日(日)夜8:00−9:30) Barbican Hall
 コリン・デービスのコンサート、ローヤル・バレーに続いてジェーン・バーキンがギンズブール12回忌当日にロンドンでコンサートをするということで、見に行きました。フランスからも沢山のファンがかけつけていました。歌はギンズブールの作ったヒット曲中心でしたが、演奏が南アフリカのミュージシャンのアレンジでこれは新鮮な印象を与えてくれました。

(8)オペラ ヤナーチェフ「賢い女狐」(3月5日(水)夜7:30−9:30)Royal Opera House(Covent Garden)
 この切符は2月12日にこちらに到着してすぐにコベントガーデンで手に入れたもので、最高の席で見ることができました。ヤナーチェフのものは以前にニューヨークのメトロポリタン・オペラでも見ていましたが、日本ではあまり見られない演目で、楽しみにしていましたが、環境保護や生命の永遠性など極めて新しいトピックを優しい音楽で包んで、演出も軽やかで、いいオペラでした。

(9)コンサート ヴラディミア・アシュケナージュ(指揮)フィルハーモニア・オーケストラ、プロコフィエフ「アレクサンダー・ネフスキー」(エイゼンシュタインの同名映画の音楽)RoyalFestival Hall(3月11日夜7:00−9:00)
 これは、まさに今という時期にぴったりの企画でした。企画は全体は「スターリン下でのプロコフィエフとショスタコビッチ」という堅苦しいものですが、このコンサートはエイゼンシュタインの映画を上映しながら、そこで用いられたプロコフィエフの曲を再現するという試行で、アシュケナージが指揮をしました。学生時代にこの映画は見ていたのですが、印象が全く違い、音楽の良さも再認識しました。

 以上4週間で9つですから、週に約2つのコンサートにいっていることになります。そのバラエティーの広さ、演奏の質の高さ、歌手やバレリーナの上手さなどどれをとっても、ロンドンが最高の環境にあることを再確認しました。

北村行伸@London
Royal Opera House