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オピニオン

●「ロンドン便り(3)」2003年3月10日 Great Gate of Trinity Collge

 イギリスに来て、様々な人に再会していますが、オックスフォード大学で博士論文の指導教官であったアマティア・セン教授に会うことも今回のロンドン滞在中の予定に入っていました。先週の火曜にケンブリッジ大学トリニティー・カレッジに電話したところ、丁度日本での「人間の安全保障」会議の最終報告を緒方貞子共同議長とともに、まとめ上げて帰国されたところでした。お疲れであるにもかかわらず、週末にカレッジに招待して下さり、 3月8日−9日にかけてケンブリッジ大学のトリニティーカレッジに行ってきました。

現在、セン教授はトリニティー・カレッジのマスター(学寮長)をされていて、お住まいもマスターズ・ロッジという学内にあり、それは豪華なもので、まるでどこかのお城の中にいるような気がしてきます。

 もちろん、言うまでもなく、トリニティー・カレッジはあのアイザック・ニュートンや詩人のワーズワースなどを始め、これまでに合計32名ものノーベル賞受賞者やその他の世界的研究者を輩出している世界有数の研究機関です。居間にはニュートンやガリレオの肖像画が掲げられ、よく見るとニュートンの使っていた椅子まで置いてあります。  3月8日のゲストは我々夫妻の他に、スウェーデンのノーベル財団理事長のMichael Sohlmanと彼の娘さん(ロイター社勤務)、ニコラス・カルドアの娘でLSE教授のMary Kaldor、前マッカーサー財団総裁のAdele Simmons女史、センの娘のAntra(Pico)とその娘婿の8人とホストはセン教授の奥さんでキングス・カレッジで経済思想史を教えているEmma Rothchild(ロスチャイルド家の直系)とセン教授の合計10名でした。

With Professor Sen at his Master's Lodge

 話題は当然ながら、イラク問題に関して集中しました。もちろん、全員が現在のアメリカの政策に反対しており、その意味では議論にはなっても、対立はないので、しばらく誰かが、アメリカの外交政策や軍事政策を批判して、ため息をついて、また次の話題に移るという具合に話が進みました。幾つか記憶に残っているのは、なぜアメリカで左派の言論がこれほどまでに封じ込められているのかということと、国民の大多数が反対している中で戦争に参加した例はないのではないかというセン教授の主張です。  私自身はEmma Rothchildの隣に座ったので、いい機会だと思い、Jeremy BenthamやAdam Smithの経済哲学について質問したり、ユダヤ人の金融業への関わりについて考えを述べました。ゲストの中ではマリー・カルドアが圧倒的に騒がしく、お父さんを思い出させました。

 翌日の日曜日はくつろいで皆で朝食をとり、三々五々、散歩に出かけたり、美術館を訪ねたりしてすごし、夕方の電車でロンドンに戻ってきました。こうして、いつまでも元の生徒を大事にして下さるセン先生の暖かい配慮とインテレクチュアルな会話、ケンブリッジの早春の心地よさが重なり、大変豊かな気持ちに満たされた週末でした。

北村行伸@London

In front of Master's Lodge of Trinity College, Cambridge