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オピニオン

●「ロンドン便り(1)」2003年2月21日

 2003年2月12日よりこちらロンドンに滞在しています。滞在先はUniversity Collge LondonとInstitute for Fiscal Studiesという研究機関です。ここは世界のmicroeconometricsのメッカであり、世界的なこの分野の研究者が集まっています。現在は、Quantile Regressionで有名な、Roger Koenker(University of Illinoi)が滞在していますし、ついこのあいだまではBo Honore, Robert Moffitt, James Heckman, Martin Browningなどが滞在していました。専属の研究者としてはRichard Blundell, Andrew Chesher, Orazio Attanisio, Ian Crawford, Hidehiko Ichimura, Costas Meghir, Frank Windmeijerなどがいます。

 これから、この研究機関で6週間microeconometricsの研究を中心に様々な知識を身につける予定でいます。宿舎はUniversity Collge Londonの経済学部よりわずか2ブロックしか離れていないところにあり(ユーストン駅の近くです)、ロンドン中心街へも地下鉄で2−3駅の距離ですごく便利なところに位置しています。

Keynes Plate
keynes

 今日はこの近所の様子について解説します。Univeristy College Londonはロンドン大学の一部をなすカレッジでロンドン大学のなかでは最も古いものです。このカレッジの周辺はブルームズベリー(Bloomsbery)と呼ばれており、大英博物館や大学施設が軒を並べる文教地区です。私の滞在している宿舎のすぐ裏にGordon Squareという公園に面した一角がありますが、そこの46番地(46 Grodon Sq)は経済学者ケインズが死ぬまで30年間過ごしたロンドンにおける彼の住宅跡です。今はロンドン大学の施設なっています。同じく51番地は評論家リットン・ストレィチの住宅跡であり、46−52番地にかけてはケインズ、ストレィチ、バージニア・ウルフなどが集まり住み、20世紀前半のロンドンにおけるデカダンスな社交場となっており、一般にここに集った文化人はブルームズベリー・グループと呼ばれています。またUpper Wobarn Placeにはディケンズの住宅跡があり、近くにはそのミュージアムもあります。すこしTottonam Court Roadの方に来ると、ロセッティなどに代表される前期ラファエロ派(Pre Raphaelite Circle)の画家達が集った住宅(7 Gower Street)もあります。

 ロンドンの経済学というLondon School of Economicsを思い浮かべる人が多いと思いますが、歴史的にも人材的にもUniversity Collge Londonは一大勢力をなしています。すなわち、この経済学部は1827年にディビッド・リカードを記念してイギリスで最初に創設されたもので、ジェボンズなどが教鞭をとった由緒ある学部です。経済学部の建物(Dryden House)のすぐ隣の法学部の建物はベンサムハウスと呼ばれ、法哲学者ジェレミー・ベンサムに因んだものです(またベンサムは将来の再生医学を信じてミイラとしていまでも保存されているはずです)。

 これらの情報は書物を片手に駈けずり回って手に入れたものではなく、宿舎からUniversity CollegeやInstitute for Fiscal Studiesへ通う道すがら自然に目にして気づいたものです。

 イギリスやフランスの文化行政のいいところは、その住宅に住んだ過去の偉人を称えてプレートが貼られていることです。それを読めば、そこにどのような人がいつの時代にいたのかが簡単にわかるようになっています。非常に手軽で、しかも効果的な文化教育法だと思います。私のような短期の滞在者のとっても非常に有難い指標です。

北村行伸@London

Mohatma Gandhi in London
Gandhi