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オピニオン

●「フーリガンと若年失業」2002年5月6日

 2002年FIFAワールドカップがいよいよ開催されようとしている。素晴らしい大会になることを祈っている。ワールドカップに絡んで心配されているのがフーリガンといわれる凶悪なサポーター達の行動である。警察もフーリガン対策をしているということだが、その場限りの対応ではなく、イギリスでサッカーリーグ期間中の毎週土曜日の午後の試合に引き起こされている大騒ぎ、そしてヨーロッパ選手権やワールドカップの度に引き起こされる国際的な暴力行為はいったい何を意味しているのかを考える必要がある。

 1980年代のほとんど全ての期間をイギリス(1982-88)とフランス(1988-91)ですごした私の経験からすると、これはまさしく若年失業者の欲求不満、反社会的な意識のはけ口となっているのだと思う。特に、サッチャー政権下では、様々な経済改革と構造改革が行われ、民営化やベンチャー企業の育成などが支援される一方で、旧来の産業のリストラを通した失業者の大幅な増加が見られた。この時、失業した若者、あるいはこの時、労働市場に入りそこない、そのまま10年以上も定職に就けなかった若者が急増したのである。労働市場に参加すれば、企業内で得られるであろう様々なON-THE-JOB-TRAINING(OJT)が何ら与えられないまま、無為に10年を過ごした場合には、その後もほとんど雇用される見込みはなくなるだろう。少なくとも正規労働に就くことは不可能に近いだろう。そのような若者をサッチャー政権は作り出し、その反動が現在のフーリガンとなって現れているのだと言っても過言ではないのである。

 現在、日本の企業はリストラや高齢者の雇用確保の名目で、若者の雇用を抑えている。その結果、若者の失業率に関しては10%を超える水準にあると言われている。これらの若者が、これから10年間の間にフリーターなどの非正規就業に就き、適切なOJTを受けることなく無為な時間を過ごしたとすれば、そして企業および日本社会がそれを容認して、若者の働く意欲を削ぐことに荷担したとすれば、日本の若者(元若者)もイギリスとは別の形のフーリガンとして反社会的な行動に出る可能性は否定できないのではないだろうか。それには、引きこもりやストーカーなどの行為も含まれるであろうし、アメリカで見られるようなサイコキラーにつながることだってあり得る。目先の雇用を確保することに汲々として10-20年後の影響を考えないと大変な社会的コストを将来に押し付けることになると思えて仕方がない。