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オピニオン

●「『消費税の引下げと段階的な引き上げ策』を考える」2002年1月10日

 2002年1月3日付け日本経済新聞『経済教室』にはフェルドスタイン教授(ハーバード大学)が日本再生の針路として税制を活用することを主張している。その主旨は「消費税率をいったん1%まで下げて、3ヶ月ごとに1%ずつ引き上げる。企業の投資に20%の税控除を認めた上で翌年から控除率を引き下げる。こうすることによって、個人、企業ともに消費や投資を手控えることがなくなり、一時的なインフレを作り出せる」ということであり、これは「自力で不況を脱出するための実施可能な戦略である」としている。実際、これと同様の主張は深尾光洋教授(慶應義塾大学)やチャールズ・ホリオカ教授(大阪大学)も以前から提案している。

 問題は、このような政策が総需要刺激効果としてどれほど有効かということと同時に、消費税に関しては広範に徴収されているだけに税率変更の調整コストが比較的大きいこと、それに関連して税率を段階的に変更するような機動的な税制度になっていないこと、税率一定で控除品目が少ないことを確保することによって、税制上の中立性を維持している現行の消費税を、景気刺激目的で変更することを正当化することは難しいなど、「言うは易し、行なうは難し」ということである。

 長期的には、消費税率の変更もあり得るので、税率の変更が自由に行なえるようなシステムを導入する必要がある。小売店などで消費税率(3%とか5%)が固定的に計算システムに入っていて、税率変更には即座に対応できないということでは、フェルドスタイン教授の提案に答えることはできないばかりではなく、将来の本格的な消費税率変更にも機動的に対処できない。

 それ対して、投資に対する税率控除は対応が比較的簡単であり、政策としてはあり得る。消費税減税に代えて所得税減税なら、これも比較的対応が簡単であるので、政策としては考えられる。しかし、投資行動や消費行動を考える場合に、税率が投資や消費をどれぐらい刺激するかというとこれは実証的にはかなり小さいのではないだろうか。少なくとも、それが大きな効果をもつという実証結果は見たことがない。むしろ現状では価格や金利が経済行動に刺激を与えないことこそが問題なのであって、そのような刺激策で景気が回復するという提案は最近の実体経済の動きを良く理解したものとは思えない。

 アメリカの経済学者から日本経済に対する政策提言は多く出されているし、それを日本代理店よろしく喧伝している日本人学者、エコノミストも多いが、いずれにしても厳密な実証研究に基づいて、制度的、政治的制約の下で適切な政策判断をしなければならない。