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オピニオン

●「高齢者弱者論へのコメント」2001年5月25日

 2001年5月25日付け朝日新聞朝刊『私の視点』で西村周三教授(京都大学)が、社会保障改革が「高齢者金持ち説」に乗せられて、高齢低所得者層にまで負担を求めるかのような論調が出てきていることに危惧を表明している。すなわち、「現在、65歳以上の高齢者数は、2000万人を超えている。その経済生活水準を平均で判断すると、大きな誤りをおかす」、そして「いずれにせよ、ごく一部の豊かな高齢者のみを見て、「金持ち説」を唱えるのは誤解である」ということだそうだ。このいわゆる「高齢者金持ち説」は高山憲之教授(一橋大学)と私の共同研究で繰り返し裏付けられていることであるが、そのことから、高齢者を一律に金持ちと認めて、社会保障負担を求めるべきであると結論付けたことは一度もない。むしろ、問題は西村教授がいみじくも書いておられるように「1400兆円に及ぶ個人資産の半分近くは60歳以上の高齢者によって保有されているが、目をそらせてはならないのは、高齢者の貧富の格差の現実である。富や所得は、こと高齢者に限っては、ごく一部の人々に偏在している」ということであり、そのような分配の不平等、健康状態の分散の大きさを前にして、一定年齢以上の人間を高齢者として一律に扱うことに反対しているのである。例えば、70歳でも健康で所得もあり、社会的に活躍している人を、単に年齢的にみて高齢者であるとして、年金をはじめ、すべての高齢者控除の特権を与えるべきであろうかということがわれわれの問題意識なのである。元気で活躍する高齢者にはそれなりの負担をしてもらおうというのが、なぜ問題なのだろうか。  最近、他の医療経済学者も75歳以上の後期高齢者に対しては、一律医療費免除を与えてもいいのではないかという発言をしておられた。医療の専門家が、年齢による一律の取り扱いを主張される背景にあるものが何なのか勘ぐりたくなるような最近の一連の言動である。