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オピニオン

●「ケニア便り」1999年8月16日

ケニアに来て早くも1週間半たちました。この間、何かとあわただしくしており、しばらくお便りができませんでしたが、やっとすくし余裕ができたのでお便りします。今回は、ケニア中央銀行金融学校の夏期集中講義に来ています。今回の予定では一日4時間の講義を12回連続で合計48時間の授業をし、その後で、試験をして成績をつけるということになっています。

これまで1週5回20時間ほど連続講義を行いましたが、4時間話しつづけるのは結構大変です。それで、授業の準備に時間が取られて余り余裕がなかったというわけです。48時間の講義というのは、大体週1回、1.5時間の授業を32週間行うのに等しいので、通年の講義とほぼ等しい内容を12日間でやってしまう勘定になります。私自身これほど集中した講義を行うのは初めてです。講義の内容は「銀行理論と実践」というもので、私が教えていいものなのかどうかも分かりませんが、なんとかこなそうと努力しています。集中講義では教科書がないと悲惨なことになる可能性もあるので、あらかじめMishkin(1998) The Economics of Money, Banking, and Finanical Markets (Addison Wesley)を教科書として指定しておきました。この本を中心に12回分の講義を〈1〉銀行行動論、(2)銀行規制論、(3)中央銀行論に分けて行っています。

(1)の銀行行動論は市中銀行の行動を財務諸表を見ながら説明するという方式をとりました。日本からは東京三菱銀行、ケニアからはバークレレーズ銀行(ケニア一の民間銀行(イギリス系))のバランスシートを見せて、項目毎に細かく見ていきました。当然不良債権の内容についても議論しましたし、会計制度の問題などについても議論しました。とにかく、ケニアでは、貸出審査があろうとなたろうと、有力政治家が力にものを言わせてお金を借り、まったく返さないということが日常茶飯事に起こっており、政治的に不良債権問題を解決する気はなったくなく、しかもその結果、倒産する銀行も救済されないというひどいことが、連続して起こっているそうです。そうやって、政治化がタコの足きりのように銀行をつぶしていくと最後に何が残るのかを考えると恐ろしいものがあります。

(2)銀行規制論は銀行のセーフティーネットについての一般的な議論をした後で,各種の規制について議論しました。預金保険機構、自己資本規制、早期是正措置、支店規制、業際規制、情報開示、消費者保護、過当競争規制、国際業務規制などについての最近の各国の諸規制、BIS規制などについて説明しました。とりわけ、国際的な市場取引の失敗のケースとして、ベアリング、大和、住友のケースについて紹介したところ、これは自分たちには関係のないことだというような顔をしていいたので、小早川君とシステミック・リスクに関する論文を書いたときに、考えたゲームを教室で実験してみました。 これはゲームのプレーヤーが勝ちサイドにいるか、負けサイドにいるかで危険回避的になるか、危険選好的になるかがかわてっくるかどうかを実験するもので、これまでの結果と同様に、ここでも金額が大きくなるほど、勝ちゲームでは危険回避的に(つまり確実なリターンを選び)なり、負けゲームでは危険選好的(つまりギャンブルに出る)になることがわかりました。自分は堅実な中央銀行員だというような顔をしていた人が、大きく負けが込むと必ずギャンブルに走るような選択をすることが分かってショックをうけていました。つまり、リーソンや井口氏のようにギャンブルに走る行動はなにも特殊なものではなく、人間のかなり普遍的な行動パターンであることを分からせ、そのあとで、であればこそ、早めの損きりや早期是正措置が重要であることを強調しましたが、どれほど分かってくれたことやら? あとで試験してみましょう。

(3)の中央銀行論は来週からのトピックですのでまた、次回報告します。

実は、今週末はマサイ・マラにサファリに行ったのでその報告もあるのですが、これも次回に回します。これから、明日の授業の準備にかかります。

北村行伸
in Kenya