研究計画

研究方法

本研究では,(1) ネットワークを構成する経済主体の成長力あるいは経済厚生がネットワークへの参画によってどの程度,そしてどのように改善するのか(ネットワークの「経営改善」機能),(2) 新しい企業のネットワークへの参入,経営の悪化した企業のネットワークからの退出はどの程度,そしてどのようにして行われているのか(ネットワークの「新陳代謝」機能)という2つの視点から分析を行う。過去四半世紀の日本経済では,生産性が低下し本来は退出すべき企業のネットワークからの退出が円滑に進まなかったという意味で新陳代謝機能が不全であった可能性がある。また,日本経済が不安定化する中でネットワーク内での健全な企業間の協調関係が悪化し相互不信が生じ,その結果,経営改善機能が十全に機能しなかった可能性がある。こうした現象をデータを用いて検証することにより,長期停滞の原因を解明する。その上で,現時点での日本経済のネットワークがそうした問題をどこまで克服できているのか,持続的な成長を実現するためにさらにどのような措置が必要かを明らかにする。

具体的には,第1に多時点の企業間ネットワークデータを構築し分析を行う。「関係」としては,取引関係(販売と仕入の関係),資本関係,信用関係を扱う。数十万社の企業の関係を調べるには数十万×数十万の行列計算を行う必要がある。東工大の高安研究室の全面的な支援を得て解析を行う。第2に,企業間関係や企業と銀行の関係に係るアンケート調査を行い,バブル崩壊後の取引関係(ネットワーク)の変化が経営パフォーマンスにどのような影響を及ぼしてきたのか,取引関係のどの側面が成長を阻害しているかといった点を調べる。上記の研究内容・研究手法に即して,以下のサブプロジェクトを立ち上げる。

    ネットワークの「経営改善」機能に関する研究

  1. 企業生産性とネットワークの関係に関する分析:研究分担者である深尾はJIPデータベースを構築し企業の生産性を精度高く計測する研究をこれまで行ってきた。一方,渡辺は,ネットワークを構成する企業がネットワークの中でどのような位置を占めているかについて研究を行ってきた。例えば,多くの企業から仕入れると同時に多くの企業に販売を行うハブ企業が存在する一方で,ネットワーク内で周辺的な位置にいる企業も数多く存在する。この2つの研究成果を結合させることにより,ハブ企業の地位を利用することにより企業は生産性を高めることができるのか,あるいはその逆に,生産性が高い企業だけがハブ企業になれるのかを観察する。さらには,生産性とネットワークの関係がバブル前とバブル後でどう変化しているか,東アジア諸国へとネットワークを拡張することにより企業の生産性はどのように変化するかといった点も考察する。
  2. 特許ネットワークと取引ネットワークの関係に関する分析:研究協力者である玉田はこれまでの研究で特許のサイエンスリンケージデータベースを構築した。研究開発のネットワークを取引関係のネットワークと比較することにより,研究開発の関係性が新たな取引の関係性を生むのか,それとも逆に,長年にわたる取引関係が研究開発のつながりを生むのかといった点を考察する。
  3. 企業成長動学とネットワークの関係に関する分析:渡辺は研究協力者である齊藤との共同研究で企業の規模と取引関係先数の関係を分析した。この分析を多時点に拡張し,ネットワークの時間的変遷と企業規模の変化(企業成長)の関係を分析する。
  4. プロダクトイノベーションとネットワークの関係に関する分析:渡辺は,研究分担者である水野,研究協力者である坂井とともにPOSデータを用いたこれまでの研究において,商品をバーコード単位で定義した上で,新商品の開発・投入がどのような景気局面でどのような企業に起こりやすいかを調べた。そうしたプロダクトイノベーションを活発に行っている企業はネットワーク内でどのような位置を占めているのか,新たな商品の開発・投入に伴う企業間の新たな販売リンクはいかにして生まれるのかといった点を考察する。
  5. 企業間距離と取引ネットワークの関係に関する分析:研究協力者である清水はこれまでGISを用いた研究を行ってきた。それを踏まえて,最近同様の研究を行っている植杉,齊藤とともに,企業間の距離と取引関係の起こる確率の関係を分析する。そこで念頭に置くのは,日本企業は近距離の相手とのみ取引をする傾向があり,それがビジネス機会を狭め,成長を阻害しているのではないかという仮説である。日本の特性を浮き彫りにするため同じ分析を日本だけではなく欧米諸国の結果とも比較する。
  6. 企業間の与信関係に関する分析:研究分担者の小川,内田は企業間与信と銀行与信の関係をこれまで分析してきた。金融危機の時期には企業の相互不信のため企業間信用が減少したと言われている。企業間信用の多寡とネットワーク上の位置はどのように関係しているのか,企業間信用の減少は企業の生産性や成長にどのような影響を及ぼしたのかを分析する。
  7. ネットワークの「新陳代謝」機能に関する研究

  8. 創業企業のネットワークへの参入に関する分析:研究分担者である岡室はこれまで研究開発型新規開業企業の経営に関する研究を行ってきた。これを踏まえて,新規企業がネットワークにどのようにして参画するのか,成長とともにリンク数をどのように増やしていくのかといった点を分析する。
  9. ネットワークからの退出に関する分析:植杉,坂井は,これまでの研究で経営パフォーマンスの悪い企業は直ちに市場から退出するという意味で自然淘汰の原理に従っているのかを分析した。ネットワーク上で重要な位置を占める企業は経営が悪化してもその地位に居座り,その意味で新陳代謝が働かない可能性がある。多時点のネットワークデータを用いることにより,バブル崩壊後の日本経済でそうした自然淘汰に反する現象が生じたか否かを検証する。
  10. 銀行ネットワークの張替えに関する分析:金融危機以降,銀行の整理・統合が急速に進む中,メインバンクと顧客企業のネットワークは大きな変化を余儀なくされた。小川,小野は,多時点のネットワークデータを用いることにより,ネットワークの張替えがどのようにして行われたかを検証する。また,金融危機後,企業はメインバンクの破綻リスクを回避するため複数の銀行と取引する傾向を強めているといわれているが,その事実を確認するとともに,それに伴って企業や銀行がどのようなかたちでコスト負担をしているかを分析する。
  11. 法制度が与える影響に関する分析:ネットワーク上で企業が退出を決定する際には,法的整理等,退出に関する法制度が大きな影響を与えている可能性がある。また,ネットワークの形成についても,知的財産等の法律や制度が関係している可能性がある。柳川,小塚は,法と経済学の手法を用いて,法制度が新陳代謝機能にどのような影響を与えているのか,どのような法制度が望ましいかについて分析する。

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研究の目的

研究の意義

本研究が目指す貢献

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