研究計画

本研究が目指す貢献

「骨太の方針2008」で指摘されているように,わが国の経済成長を阻害する最も重要な要因は「つながり力」の不足である。企業間に絞って考えるとつながり力には2つの意味がある。第1は新たな「つながり」の創出である。つまり,新たな企業との間で新たな技術や商品を開発し,新たな物流や新たな資金の流れを創出するということである。第2は,企業と企業の間に既に存在するつながりのパイプをさらに太くするということである。単なる商品の仕入・販売にとどまるのではなく,お互いのもつ技術やビジネスモデルを熟知し,さらなる協調の可能性を探るということである。第1のつながり力についていえば,日本には,優秀な技術を持っているにもかかわらず,評判が確立していないという理由で他の企業との関係が生まれない企業が多数あり,成長の機会を逃している。第2のつながり力については,金融危機時の企業間の相互不信がいまなお残り,取引量や企業間信用でみる限り企業間のパイプは細い。この2つの意味で,日本経済の企業間ネットワークは十分に成熟しているとは言えず,さらに関係性を濃密にする余地が残っている。これが日本経済の課題であり,この解決に向けて本研究では次のような貢献を行うことを目指す。

  1. 日本経済のどこに「つながり力」の不足があり,それを解消すればどの程度のマグニチュードで生産性や成長の向上を見込めるかを定量的な分析結果をもとに示すことができる。一連の分析結果は,日本経済のどの産業あるいはどの地域のネットワークが粗いかを明らかにすると同時に,企業が新たなリンクをはることによってそれがどの程度,新商品・新技術の開発や新たなビジネスモデルの構築につながり,最終的にどの程度の生産性上昇を期待できるかの推計値を提供する。政策を実行するには費用対効果を知ることが大切であるが,本研究の分析結果によりネットワークを密にする効果を定量的に把握することができ,政策決定の重要な判断材料となる。
  2. 「つながり力」を強める具体的な方策を提示できる。一連の分析を行うことによって,企業間の新たな関係性の成立を阻害する要因が明らかになる。ひとつの可能性は情報通信技術の活用である。銀行と企業の関係でいうと,情報通信技術の発達によって借り手企業の経営情報をハードな(Face-to-faceでなくても伝達可能な)情報に転換することができるようになった。その結果,米国の東海岸の銀行が西海岸の企業と新たに取引関係を結ぶというように,地理的な制約を克服してネットワークが拡大を続けている。「骨太の方針2008」で強調されているように,わが国では情報通信技術の活用が十分でなく,それがネットワークのダイナミックな拡充を阻害している可能性がある。一連の分析は,この障害を除いたときに,どの程度ネットワークを拡充できるかについて示唆を与えると予想される。
  3. 企業間ネットワークをとりまく法制度の望ましい姿を提示できる。「つながり力」を強めるには創業企業がネットワークに参入できると同時に競争力を喪失した企業がネットワークから退出する法的な仕組みを整備することが重要である。企業が退出を決定する際には,法的整理等,退出に関する法制度が大きな影響を与えている可能性がある。また,ネットワークの形成についても,知的財産等の法律や制度が関係している可能性がある。本研究では,法制度が一般に企業間ネットワークの新陳代謝機能にどのような影響を与えているのかを分析し,その結果を踏まえてどのような法制度が望ましいかについて提言する。

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