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日本・アジア経済研究部門

ヨーロッパ系文化の下で開花した工業化を軸とした経済の発展が、非ヨーロッパ系文化の下にある地域に定着したのは19世紀末の日本が最初であり、第2次大戦を経た20世紀後期にようやくアジアの諸地域に浸透しつつある。 これは異質文化の結合という意味において共通するユニークな性格をもっている。 それだけに日本の経験はアジア諸国の開発政策の形成に示唆を与えるところ多く、逆にアジア諸国の現状認識と歴史的経験の解明は日本の歴史的過程の理解に資するところが大である。 この認識の下に日本・アジア経済研究部門を構成し、その共同活動を更に一段と拡充しようとするものである。

日本経済第1

1) 日本経済は19世紀末から20世紀初頭にかけて、いわゆる経済的離陸を果たし工業化を軸とした本格的な経済成長の段階に入ったと考えられる。 本研究科目は主として19世紀以降における近代経済成長とそれ以前の経済と人口の実証的研究を行う。 そこでは近代経済成長を可能にした初期条件の分析が主要テーマの一つであり、また成長の帰結としての生活水準も研究テーマである。 われわれは社会経済史学の成果等を吸収しつつ、これらの歴史的過程を明らかにする。

2) もう一つの主要テーマは、経済成長そのものの分析である。 すなわち、近代以前の成長パターンから、工業化を中心とした経済成長への移行のメカニズムを解明する。 さらに、その過程でつくられた諸制度の役割も重要な研究対象となる。

本研究科目の長期的研究プランは次のとおりである。

  1. 徳川時代から昭和初期にかけての人口と経済成長の実証分析
  2. 明治政府による諸改革と経済政策およびその効果に関する実証的分析
  3. 経済諸主体の行動パターンに関する実証的分析
  4. 近代経済成長過程における諸制度の理論的・実証的分析

日本経済第2

1) 本研究科目は主として、経済的離陸を完了した後の日本経済の分析を目的とする。日本経済は離陸以後急速な成長を遂げたが、そのような高度成長の要因を解明することは極めて重要である。しかし高度成長の要因は単一ではなく、違った種類の要因が数多く存在したと思われる。従ってその要因の摘出については、経済成長のすべての側面を分析しなければならない。この点を考慮して本研究科目は、経済成長の総括的研究を行う。経済には実物面と貨幣金融面とがあるが、我々はこれらの両面を取り上げ、併せて両者の交渉を分析する。

2) 実物面の研究については、生産、分配、支出の三面から接近する必要がある。生産については資本蓄積、労働供給(従って人口成長)、技術進歩の分析、分配については賃金、分配率の分析、そして支出については消費、貯蓄、投資の分析がそれぞれ行われる。貨幣金融面の研究については金融機関の発達、通貨供給の変化等の分析が行われる。そして実物面と貨幣金融面との交渉は、物価の変動とそのメカニズムの分析によって解明される。

3) 我々はそれぞれの問題について、まず統計を利用して事実の発見に努め、次いで経済理論的、もしくは計量経済学的分析に移る。更に我々は個々の問題に関する研究を総括し、経済成長の全体像を明らかにすることが試みられる。その際連立方程式体系の計量経済的モデルの利用が有効である。この手法により、経済成長の諸側面の間の関連が初めて明らかになるからである。

4) 計量経済学的分析には豊富且つ正確な統計が必要である。19世紀末葉から今日までの経済統計の収集と推計は、これまで日本経済第1、第2研究部門によって精力的に進められてきた。そしてその成果は、『長期経済統計』(全14巻)として出版が完了した。しかしこれは未だ不備な点が多く残っているので、我々はそれを補う努力を続ける必要がある。経済統計の長期的シリーズが得られる国は極めて少ないので、本研究科目による推計作業の成果自体は世界的にも広く注目を集めるものと思われる。

5) ここ数年の重点テーマとして戦後高度成長期を中心とするいわゆる日本経済システムの生成、現状、将来の問題に取り組んでいる。特に経済のグローバリゼイションとIT革命のもとで日本経済システムをいかに作り変えてゆくかという問題意識のもとで鋭意研究に取り組んでいる。特にコーポレートガバナンスの問題に焦点が当てられている。

本研究科目の研究テーマは次のとおりである。

 1. 明治以来の資金循環と財政金融構造の研究(長期資金の役割)
 2. 財政金融政策の経済成長及び景気循環に及ぼす効果の分析
 3. 日本およびアジアのコーポレートガバナンスの現状と将来
 4. 日本型経済システムの現状と将来:公正と効率

 

アジア経済第1

1) 近年益々低開発諸国経済に関する研究の必要性が声を大にして叫ばれているが、わが国の場合、特にアジア地域の経済開発に関する研究、並びに日本の経済発展の経験を礎石とした研究の推進が、緊要にしてかつ急務であると考えられる。本研究所における当該研究科目も正にそうした要請に積極的に応えんとするものである。
 アジア経済第1研究科目は、従来の中国及び東南アジア経済研究部門の成果と方針を引き継ぎ、更にその一層の発展と拡充を企画している。すなわち中国をはじめとする東アジア諸国ならびにインド等の南アジアおよび東南アジア諸国をその主たる対象地域とし、いわゆる正統的現代経済学(狭義の)の視点から、理論的かつ実証的な分析を行うことがその本務とされる。

2) ただ既存の経済学の分析対象は、あくまでも市場の十分に発達した経済のみに限定されていたがため、今日のアジア諸国へその理論を直接適用することは、多くの問題点を含む。言い換えれば当研究科目は、市場が低発達な経済の構造や運行をも十分に理解し得る、より包括的・現実的な経済理論の枠組みの拡大構築をその大きな研究テーマの一つとしている。

3) それは他方において、そうした新しい理論の開発や妥当性を検証する意味でも、数多くの実証分析が着実に積み重ねられていかねばならないことを意味する。従って近年各国で次第に整備されつつある統計資料を縦横に駆使し、広範な数量的分析を展開することも、当研究科目のもう一つの主要な研究テーマとなる。そこでは国民所得統計等のマクロ・データのみならず、企業統計や家計調査等のミクロ的資料をも含めた多変量データの統計的解析が、最も有効にして必要不可欠であると考えられている。

4) なお日本経済研究科目との緊密な協力による、朝鮮や台湾、「満州」等の旧植民地経済の分析、国際比較可能な汎アジア圏の長期経済統計データベースの整備、或いは発展論の視角から日本の経済発展の経験そのものの新たなる吟味等もまた、重要な対象領域として含まれていることが付け加えられなければならない。

本研究科目の主要な研究テーマは次のとおりである。

 1. 経済開発理論モデルの作成とその仮説の検証
 2. 低発達市場における技術導入とその普及に関する分析
 3. アジア諸国経済の工業化と経済組織に関する分析
 4. 経済発展における教育の役割について
 5. アジア農業における資源配分と所得分配の分析

アジア経済第2

1) 正統的な経済学が、いわゆる低開発諸国の経済や社会を十分にその考察の対象となしえなかったことは、今日の経済学が欧米社会の歴史や現実を背景に構築されてきたことと決して無関係ではない。それゆえ、換言すれば、そこにはアジア的な現実を反映させうる余地は極めて少ないばかりでなく、アジアの経済や社会の実態とも完全に整合的な枠組みであるとは言い難い。
 こうした経済学の現状にあって、経済発展論ないしアジア経済研究を推し進めて行くには、狭義の経済学的な視野を超えた学際的(inter-disciplinary)な方法が極めて有意義であることは論をまつまでもない。アジア経済第2研究科目は、正にこうした視点に立つ研究の推進を目的としている。

2) 村落構造の解明や共同体的規制、一見非合理的と思われる経済行動や貧困な企業者精神等々の分析には、社会経済学的な視点が不可欠である。また植民地主義の影響や経済組織・制度、政府の役割等の分析には、政治経済学的な接近も必要となろう。何れにせよ既存の経済学の枠を超えたより広い地平にのみ、低開発国経済を分析しうる基盤が築かれうる可能性が存在しているのである。当面そのための広義の経済学的視角と方法が、模索されなければならないと言えよう。

3) そしてこの目的のためには、やはり大量の社会経済的データの統計的処理や新しい社会経済理論の開発が、重点的に推し進められる必要があると考えられる。

本研究科目の主要な研究テーマは次のとおりである。

 1. 村落の制度・組織と家族・社会構造の分析
 2. 労働移動と都市化の問題に関する分析
 3. 企業家活動とその社会的背景の研究
 4. 経営者層の職務意識・価値意識に関する分析
 5. 植民地主義の影響とナショナリズム・政府の役割に関する研究

各所員の研究課題

阿部修人
1. 家計消費研究:日本のミクロデータを用いた家計消費・貯蓄決定行動の理論モデル構築および構造パラメーターの推計
2. 物価変動ダイナミクス:POS等の大規模個別価格データに基づくマクロの物価変動メカニズムの解明

神林龍
1. 日本における解雇法制の効果に関する実証的研究
2. ハローワークのマッチングの効率性に関する実証的研究
3. 1990~2000年代の日本の労働市場の変化に関する実証的研究

黒崎卓
経済開発・経済発展のミクロ経済学的分析
1. インド及びパキスタンの貧困家計のリスク対応と労働配分、人的資本
2. パキスタンにおける経済発展と信用市場、コミュニティの役割
3. インド亜大陸の農業生産に関する歴史的定量分析、など

森口千晶
1. 日本とアメリカにおける養子制度の歴史実証分析
2. 日本とアメリカにおける雇用制度の発展の比較分析
3. 日本における所得格差の変化の実証分析