1. 『日本外国貿易年表』の統計的留意点

 

 『日本外国貿易年表』は輸出入業者の税関申告に基づいて作成されたものであり、利用にあたって留意しなくてはならない点がある。

 第一は露領亜細亜と露西亜との区分の問題である。国別の分類は輸出については最終仕向地の、輸入については産出地または製造地の属する国名(地名)によるのを原則としている。輸出申告書には仕向港、仕向地、輸入申告書には積出地、仕入地、産出地又は製造地の記入が義務づけられている。

 統計国名の分類として露領亜細亜を包含する地域は「『ロシア』社会主義連合『ソヴィエト』共和国ノ『アジア』ニ属スル部分(即チ『ウラル』山脈ノ東)並ニ『トランスコーカシア』(『アルメニア』、『ジオージア』及『アゼルバイジアン』)ノ『タークメニスタン』(『ターコマン』『ソヴィエト』社会主義共和国『アシュハバット』、『メルヴ』等)及『ウスベキスタン』(『ウズベグ』『ソヴィエト』社会主義共和国『サマルカンド』等)ノ『ソヴィエト』社会主義共和国ヲ總称ス」となっている。

 露西亜を包含する地域は「『ロシア』社会主義連合『ソヴィエト』共和国ノ『ヨーロツパ』ニ属スル部分(即チ『ウラル』山脈ノ西)、並ニ白『ロシア』及『ウクライナ』ノ『ソヴィエト』社会主義共和国を總称ス」となっている3

 第二は輸出では「本邦から出漁した船舶の舶用品及び漁業用品」は『日本外国貿易年表』には計上されない。また、輸入では「本邦より出漁せる船舶を以て捕獲採取したる魚介類、海獣、海藻、その他の水産物及びその製品にして工程の簡単なるもの、但し当該船舶又は之に附属せる船舶を以て輸入したるものに限る」は同様に計上されない。また、「北樺太及び極東水域に於ける日本の権益に属する炭坑及び漁場に於て産出又は捕獲された輸入品及びこれらの炭坑及び漁場に供給するために輸出した物品」は『日本外国貿易年表』に計上しないことになっている4

 したがって、露領漁業および沖取り漁業で捕獲された水産物は『日本外国貿易年表』による日露貿易には含まれないことになる。

 『日本外国貿易年表』のなかには附属統計の「特別輸出入品統計」として、品目捕獲地方別の詳細な「水産物」表を添えている(表〜7参照)。1935年(昭和10年)6月までは、極東水域(北樺太を含む)での日本人の利権を有する漁場(及び鉱山)の生産品を国内に入れる場合は、輸入手続きを必要とするために輸入として貿易統計に記載されていた。輸入手続きが必要とされるのは外国の一地域と認められていることによる。しかし、1935年7月からはこれらの輸入はもはや普通統計には載らないことになり特殊統計のなかの「特別輸出入品」として取り扱われている。「特別統計表」は、漁業関連の輸出では「輸出船用内譯表」と「出漁船捕獲採取品及其製品内譯表」との二つの表が基礎になっており、『外国貿易年表』のなかに「船用品表」及び「水産物表」が公表されている5

 日露貿易の実態からみれば、上記水産物の輸入額が日露貿易額をはるかに上回っているために日露貿易が過小評価されることになる。

 第三はトランジット貨物の存在である。とくに、満州国からウラジオストクを経由して日本に輸入される大豆、豆糟や日本から満州国に供給される商品はウラジオストクが仕向港になるために日露貿易に計上されることになる。正確を期すにはウラジオストク港の荷動きを把握しなくてはならない6