[結婚難時代]5 「親と同居」の壁
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「母との暮らしはそれなりに快適。だからこそ結婚にも別居にも踏み切れないのかも」と話す由紀さん=東京・六本木ヒルズで | ◇持ちつ持たれつで快適、でもこのまま年を取ったら不安…
東京都内の契約編集者由紀さん(32)=仮名=は、59歳の母親と家賃12万円の2LDKマンションに住んでいる。老人ホーム副園長の母親が最近言う。「私と一緒だから結婚しないの?」
6年前に父をがんで亡くした。すぐ兄が結婚し、2人暮らしが続く。家に8万円を入れている。
出版社で契約社員として働く。年収税込み360万円。契約期間は口約束、交通費も社会保険も雇用保険もない。仕事は面白いが、いつクビになるか分からない。「ずっと働き続けたい。安定した職場で、正社員として。今の収入では家を出るにも出られない」
2人で暮らせば生活費の負担も軽くなるし、母親も老後資金をためられる。今自分が家を出るとそれぞれ家賃が必要だ。
「母は定年が近い。今は収入があっても定年後部屋を借り続けられないかもしれない。それよりも、トイレと風呂が一緒の安アパートに母を住まわせたくない。トイレットペーパーが湯気でじっとり湿っている部屋に住むなんて、みじめ」
今付き合っている男性はいない。安定した仕事に就きたい気持ちと、家を出て誰かと暮らしたい気持ちがせめぎ合う。しかし「早く出て行きなさいよ」と言う母親が、一緒に暮らすことに安心しているようにも見える。
「母の定年が先か、私が恋人を見つけて家を出て行くのが先か競争みたいなもの。年をとればもっと出にくくなる」
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親と、同居の子供の相互依存関係が結婚をどんどん難しくしている。
65歳以上の高齢者世帯の所得は二極化している。01年度国民生活白書によると、高齢者世帯の平均年間所得は329万円だが、平均以下の世帯が67%を占める。100万〜150万円の世帯が最も多い=グラフ参照。03年度の同白書によると、経済的に不安定なパート、アルバイト層の親との同居率も上がっている。今は親に頼るパラサイトシングルやフリーターも、高齢化で親の収入が減ると逆に頼られる可能性が出てくる。
国立社会保障・人口問題研究所の少子化問題研究会メンバーで、一橋大経済研究所教授の北村行伸さん(47)は「高度成長期に資産をつくることができた戦前・戦中世代に比べ、これから定年を迎える団塊の世代は資産額が低い。不況やリストラにさらされ、年金も減りそうだ。今後老後の余裕がない世帯が増えるだろう。親と子が依存し合い、結果的に子世代の未婚化が加速する恐れがある」と指摘する。
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秋田県のエンジニア正弘さん(43)=仮名=は6年前、75歳の父親、72歳の母親と暮らすために、実家を新築した。
年収700万円。神奈川県内の企業で働いていたが、31歳のとき、仕事を辞めた両親の面倒を見るため地元支店に異動した。30代を忙しく過ごし、40代になって真剣に結婚を考えるようになった。
毎日職場と家の往復。女性との出会いは少ない。その上自分の親との同居が条件だ。「老いた親との同居をためらう女性は多いでしょうね」。30年ローンがあり、別に新居を構えるのは難しい。
「一度は結婚してみたい。子供も欲しい」。好き合った女性とそうなれればいいが、ことはそう単純ではなくなっている。【戸嶋誠司、写真も】
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