Q. いろんなマクロ経済学の教科書がありますが、どれを読んだら良いんでしょう?(学部編)

2001年6月Update

[入門編]

一般的な経済学部の教育では,普通,学部生は最初に『経済学入門』(アメリカで言うところのPrinciples)を取らされます.このレベルで,今一番,標準的なテキストは,

 スティグリッツ『スティグリッツ マクロ経済学』(東洋経済新報社)
 マンキュー『マンキュー経済学〈2〉マクロ編』(東洋経済新報社) 
 バウモル=ブラインダー『マクロエコノミックス入門―経済原理と経済政策』(HBJ出版局)

でしょう.どれもアメリカでは1冊の本を,2−3冊に分けて翻訳していて,そのうち一冊が『マクロ経済学入門』にあてられています.このうち,スティグリッツは第2版の翻訳が出ているようですが,マクロ編だけはまだのようです.マンキューは最近のアメリカのベストセラー.(バウモル=ブラインダーの翻訳は,もう書店では手に入らないようです.)
 このレベルの教科書を英語で読んでみたいという人には,以下を薦めておきます.

 John B. Taylor, Economics, Houghton Mifflin College.
 



[初・中級編]
 

学部(学類)の2−3年で,マクロ経済学を教える時使われるテキストが,

 広松 毅+ドーンブッシュ+フィッシャー『マクロ経済学』(シーエーピー出版)
 マンキュー『マクロ経済学』(東洋経済新報社)
 ホール+テーラー『マクロ経済学』(多賀出版)

           *               *               *

 福田+照山『マクロ経済学・入門 第2版』(有斐閣アルマ)
 ブランシャール『マクロ経済学(上)』(東洋経済新報社)  
 エーベル+ベルナンキ『マクロ経済学[II]』(CAP出版)  −2001年7月時点で[II]は未刊

といったところでしょうか.ただし,日本の一流大学の学生で,多少なりとも勉強する気のある学生であれば,入門編をすっ飛ばして,上記の中の最初の3冊のどれかにいきなりチャレンジしても,さほど苦にはならないと思います.
 1.ここで具体的に念頭においているのは,自分が教えた経験のある筑波と一橋.
 

最近のアメリカのマクロ経済学の教科書の流行は,「マクロ経済学のミクロ的基礎」という考えを前面に押し出すために,比較的早い段階で,ベンチ・マークとして長期の経済成長モデルの話をして,それからIS=LM等の短期分析の説明をするというものです.その流行の火付け役になったのがマンキューの教科書で,アメリカのマーケットでは大成功を収めました.(ただし日本語訳では,訳者達の判断で,より伝統的な章立てに並べ替えられています.) 他の教科書と比べて明快で分かり易い本ですが,個人的にはマンキューのマクロ経済学のスタイル・教え方については,「そこまで単純には割り切れないんじゃないの?」と思う部分があるので,良い本だとは思いますが,あまりタイプじゃないです.

 福田+照山の本は,日本のマクロ経済の実証研究について,かなり丁寧に書いてあります.単独だと,スペースの制限の問題もあって理論面の記述が多少軽すぎる感じがするので,実証面に関する副読本として,その他のどれか一冊と合わせ読むというのが,良いんじゃないでしょうか? 卒論や修論をマクロの実証研究で書こうという人には,非常に役に立つ本です.

 ブランシャールの本は,一度,自分の授業でも教科書に使ったのですが,正直,日本の大学のマクロの授業で使うには,ちょっと辛い部分があるなと思いました.個人的には(この分野の代表的な研究者である)ブランシャールの経済学観がうかがえて面白かったのですが.フランス人特有の,良く言えば洗練された,悪く言えば多少不親切なスタイルで書かれていて,取り上げる実証分析の内容も,学部学生向けにしてはハイブロウなことをやっていたりするので,資格試験などに向けて一人で勉強するための教科書としてはあまり勧めません.逆に,大学院でマクロ経済を専攻しようという意欲的な学生にとっては,他の教科書より参考になると思います.全般的に,最初の三冊よりは若干上級者向けのような気がします.

 今,自分で学部の(入門編ではない)マクロ経済学の授業を担当するとしたら,エーベル+ベルナンキを使うと思います.レベルとしては,最初の3冊と同じくらいで,同じように何でも親切丁寧にいろいろ書いてあります.この本を選ぶというのは,あくまで個人的な趣味の問題です.ただ,原書が既に第4版が出ているのに,邦訳は第2版で,しかもいまだに前半だけというのは,ちょっとどうにかして欲しいですね.

それから,マクロ経済の中でも特定の分野に特化した本として,

 ジョーンズ『経済成長理論入門―新古典派から内生的成長理論へ』(日本経済新聞社)

も,推薦しておきます.

 ここ数年で,学部レベルのメジャーな英語の教科書は,ほとんどすべて,翻訳が出てしまいました.BarroやKotolikoff達の教科書もありますが,アメリカの大学で実際に良く使われているのは上記の5冊で,最近では,特にマンキュー,ブランシャール,エーベル+ベルナンキの三冊でしょう.どうしても原書にトライしてみたいという人がいれば,どちらかというと金融の教科書ですが,マクロ関係もカヴァーしているGlenn HubbardとMishkinの本を推薦します.



[上級編 (toward Ph.D.)]
     
その上の大学院を目指すとなると,学部の教育とは質的に変化があって,

(1) 数学の使用が頻繁になる(特に動学的最適化の導入).
(2) 現実問題の説明よりも,できるだけ早く研究の最前線へ学生を連れていくことが主眼になる.

したがって,学部レベルでマクロが面白いと思っていても,ここで躓く人が多いのです.それでも,比較的スムーズに学部レベルとPh.D.レベルの間を橋渡ししてくれる本としては,

 デビッド・ローマー 『上級マクロ経済学』 (日本評論社)
 斎藤 誠 『新しいマクロ経済学―クラシカルとケインジアンの邂逅』 (有斐閣)

の二冊があります.個人的には,(ブランシャールと同じで,多少クセは有るが著者の「経済学観」が出ているという点で)後者の方が面白かったです.ローマ−の原書は、最近第2版が出ました.

 サックス+ラレーン 『マクロエコノミクス』(日本評論社) 類似品に注意!

サックス達の本は,レベルはマンキューに毛が生えた位ですが,とにかく何でも書いてあり,現実の経済問題も意識されているので,マクロを専門にする気は無い,修士専修コースの人などが読むのには,丁度良いのではないでしょうか?



Original: March 1999;  Last Updated: June 2001.