論文・著書 1996
電機メーカーの直接投資と貿易:パネルデータによる分析
深尾京司・中北徹
1996/5 (RIETI 通産研究レビュー第7号)
要旨
1980年代以降、日本企業の海外生産活動は急速に高まりつつあるが、これに
伴って日本からの輸出が減り、あるいは逆輸入が増えて、国内の生産活動や雇
用に深刻な影響をもたらすのではないかといった、いわゆる国内産業の空洞化
が懸念されている。本論文では、電機産業に属する本社企業とその現地法人に
ついて、パネルデータを使って海外生産が本社の輸出と逆輸入に与える影響を
分析した。従来の研究では、直接投資のデータの中に販売現地法人への投資が
混入するという欠陥があった。この問題を解決するため、我々は生産現地法人
に限定し、また、現地法人の生産活動の指標としてその売上から域外からの輸
入を控除した値を用いて推定を行った。分析の結果、アジアについては現地法
人の生産活動を高めた本社企業ほどアジア向輸出額が増えたが、アジア向輸出
額から逆輸入を引いた純輸出については減少する傾向が見られた。また、北米
については、現地法人が生産活動を高めた本社企業ほど北米向輸出が減少した
ことがわかった。これらの結果は、少なくとも企業レベルで見るかぎり、海外
生産活動の拡大が本社の生産活動の縮小を伴う可能性が高いことを意味する。