朝日新聞インタビュー記事/2000年9月27日朝刊24面「くらし欄」

世代間戦争防ぐには・・・
孫と思えば納得できる


一橋大学教授・高山憲之(研究代表者)


 ――なぜ、「世代間の利害調整」を研究するプロジェクトの代表者を引き受けたのですか。

 「社会主義対資本主義の図式が崩壊したいま、利害対立の基本軸は世代です。年金や医療・介護の制度は若い世代から高齢者へと所得を移転しています。お年寄りが増えて全体の負担が増せば世代間の利害対立が激しくなる恐れがあります。影響を受けるのが将来世代という意味では、地球温暖化も世代間問題です」

 ――具体的にどうやって利害を調整するのですか。

 「年金の研究をしていると、高齢者に対して『払った保険料に比べて、受けとる年金が多すぎる』という批判があります。高齢者の側はこうした損得論に怒っていることが分かります。自分たちは、次の世代を教育するために進んでカネを出した。社会基盤の整備も技術開発もして、次の世代に渡したじゃないか、と。その代わりに年金や医療の給付を受けている。その全体像をなぜ見てくれないのだと怒っているわけです」

 「この怒りは正当です。現役世代から高齢者の世代にしかるべき形で『所得の移転』が行われるのは、『ギブ・アンド・テーク』的な意味がある。現役世代に前の世代が残してくれた資産をきちっと示すなどして、説得する必要があります」

 ――高齢者にとって、今の水準の年金給付は当然の権利という意味ですか。

 「いいえ、そうではありません。所得移転をすべきかどうかの議論と、現役世代から高齢者の世代にどれだけ渡すべきかという量の議論は別なんです」

 「年金・医療や税などでどれだけ給付を受け、負担をしたかを計算し、世代別の所得を見ると、明らかに行きすぎた所得移転が起きています。つまり、高齢者が若干もらい過ぎで、現役が苦しい状態にあるのです」

 ――いまは高齢者の側が譲るべきだと言われて、納得するでしょうか。

 「高齢者の納得を得るには、自分の子供や孫がどんな状態にあるか考えてもらうのが一番です。お子さんやお孫さんは、リストラや給与削減、住宅ローンや教育費の支払いで苦しんでいませんか、と。そうした身近な次元に引きつけて考えるきっかけにするため、個々の家計レベルで、子から親、親から子へとどんな所得移転が起きているかを明らかにしていきたいと思います」


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