科学研究費補助金特定領域研究B
研究の目的:A6 (西村グループ)


1.世代間の利害調整問題は、そこに含まれる問題領域の多面化、問題の先鋭化が強まり、世界的に深刻な問題となりつつあるが、この点においては移行国も例外ではない。しかし移行国のばあい、移行に伴う社会的ショックが与えた影響は深くかつ広範であり、それに固有な問題が存在し、その深刻さはより大きいと言える。例えば、社会の人口構成は、出生率の低下、幼児死亡率の上昇のため、その高齢化が一段と進行した。また従来の社会保障制度が崩壊し、社会の広範な層は、これまでの負担が無に帰して、保障を受けられなくなった。これは多くの人々、とくに高齢者層が市場経済化に不満を持つ原因となっている。他面では、市場経済化に伴いビジネスに成功する若年・中堅層が形成されてきたが、その社会保障負担が大きすぎ、市場経済の発展の障害となっている。市場経済化に伴う貧困化の下で、世代間の利害調整の問題が重大問題になっているのである。

2.移行国の内、旧ソ連のように新たに独立国家が形成されたところでは、新興独立国自身によって、詳しい社会経済統計が作成されるようになってきた。また従来からの独立国のばあいも、経済社会統計の秘密扱いが解除され、また統計手法も改善されて、我々外国研究者にとっても有意義な統計の入手が可能になった。

3.本研究は、この様な状況を背景として、世代間利害調整の問題に焦点を当てて、何よりもまず、移行国の社会経済統計を収集し、その正確な分析を行い、客観的な世代間利害構造を解明する。またその事を通じて、世界的共通問題と移行国の特殊問題とを区別し、その経済政策的含意を吟味しようとするものである。

4.世代間利害調整問題の統一的国際的比較研究は、世界的にも国内的にも、まだ端緒についたばかりであり、しかも先進国、発展途上国、旧社会主義国を全て視野に入れた本研究は、際だった独自性をもつものである。また移行経済研究においても、市場制度形成や経済動向の研究が主流となっており、社会の世代間利害構造の解明という社会の深部にメスを入れる研究は、これまでのところ、内外ともに殆ど行われていない。この研究課題は、従来の研究のこの様な重大な欠落を補完するものである。とくに本プロジェクトでは、統一的国際的比較研究の中に移行国を位置づけることによって、問題解明が深まると思われる。


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