科学研究費補助金特定領域研究B
研究の目的:A4 (斎藤グループ)


日本の合計特殊出生率は1999年にはついに1.34という値にまで低下した。出生率の低迷が今後とも持続するようであれば,将来の公的負担の高まりは現在予想されている以上のものになり,公的負担の世代間格差に関して是認できない状況も生じるかもしれない。いずれにしても,わが国の財政システムの大幅な手直しが必要になる。

日本の労働力人口は21世紀初頭から減少に向かうと予想されている。また,労働力の高齢化も進む。こうした事態は,戦前・戦後を通じて日本経済にとって初めての経験であり,これまで合理的であった制度・慣行のいくつかは新しい環境のもとで合理性を失うだろう。

労働不足経済のもとでは,労働集約的な財から資本集約的な財の生産へと産業構造の転換が一層進むと予想される。これは製造業の国際的な分業体制を一層推し進める。しかし,その一方で,介護・医療,保育サービスなど,労働集約的なサービスへの需要も高くなると予想される。それにともなって高齢者や女性の労働参加率が従来よりも上昇し,外国人労働者が流入してくる可能性が高い。そのための環境整備も重要な政策課題になる。もちろん,労働力不足に対処するために,海外から労働力を受けいれるという政策が実施される可能性もある。

このように,少子化の進展がもたらす影響は多岐にわたり,日本経済の公的部門・民間部門に大きな構造変化をもたらすと考えられる。もちろん,少子化のもたらすと思われる影響の多くは世代間の利害調整に関わるものである。例えば,将来の公的負担の増大は現在世代と将来世代の負担の格差をもたらす。労働力人口の減少に伴って賃金率や人的資本投資の収益率が変化するが,それは世代によって異なる影響を与える。

この研究の目的は,大きく分けて二つある。一つは,少子化がどのようなメカニズムで生じたのかを分析することである。もう一つは,少子化がもたらす経済的な影響はどのようなものかを明らかにすることである。前者に関しては,出生率と育児の機会費用の関係を中心に実証的な分析を行い,同時に,保育サービス市場の整備等の少子化対策が出生率に与える影響を明らかにする。後者に関しては,理論的研究,計量的研究の両面から少子化の影響を分析する。特に,少子化の影響と世代間の利害がどのよう関わるかに注意を払い,それを踏まえてどのような制度改革が望ましいかを検討する。

現在,特に将来の公的負担の増加に絡んで少子化対策が議論されることが多い。しかし,まず,少子化の原因・影響に関する経済学的な分析が十分に行われてきたとはいえない。そして,そのため,少子化対策に関しても費用対効果を踏まえた合理的議論が行われているとは言い難いのが現状である。したがって,少子化問題に関し,理論的分析・計量的分析の両側面からの研究の蓄積は非常に重要であると考える。本研究を遂行することは,少子化問題に関連した専門的な研究を蓄積し,緊急の政策課題に関して合理的な対策を提供することにつながるであろう。


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