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論文要旨

Vol. 73, No. 4, pp. 358-391 (2022)

『新型コロナウイルス感染症の影響下におけるワーク・ライフ・バランス』
臼井 恵美子 (一橋大学経済研究所), 佐藤 繭香 (一橋大学大学院経済学研究科修士課程), 松下 美帆 (一橋大学経済研究所)

新型コロナウイルス感染症蔓延への対応として,外出自粛とともに,仕事面でもテレワークの導入が促進され,従来より長い時間家庭に留まる人が増えた.本稿はテレワークの急速な普及が夫婦間における家事・育児負担感や時間,満足度や主観的な生産性等にどう影響したかについて,内閣府が行った「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」を用いて子育て世帯を中心に分析した.その結果,子どもをもつ男性の場合,テレワークを実施した人は,それをしなかった人と比べて,家事・育児負担感とその実際の時間が感染症拡大前と比べて増えたこと,生活満足度は高まるが,生産性は低くなったと感じていることが明らかになった.一方,子どもをもつ女性の場合,テレワークを実施した人は,それをしなかった人に比べて家事・育児負担が増えたと回答する傾向があるものの,実際の育児・家事時間や生活満足度に差はなかった.男性,女性ともに,2020年5 月には感染症拡大前に比べて仕事の生産性,労働時間,すべての満足度指標は大きく落ち込んだものの,多くの指標は徐々に回復がみられた.最新データの2021年秋では,仕事満足度,社会とのつながり,生活の楽しさについては,依然,感染症拡大前の水準には回復していない.特に,未婚者の満足度指標の回復が遅れている.一方,子どものいる男女の場合,家事・育児時間や家族と過ごす時間については増加して,感染症拡大前の水準よりも高くとどまっており,人々が家庭や生活に従来よりウェイトを置いたワーク・ライフ・バランスの方向に今後大きく変わっていくかもしれない.