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論文要旨

Vol. 71, No. 2, pp. 129-143 (2020)

『中世後期日本の実質賃金 --変動と格差--』
斎藤 修 (一橋大学経済研究所), 高島 正憲 (関西学院大学経済学部・経済学研究科)

本論文では,日本の中世後期における実質賃金の計測を通じて当時の労働市場のあり方を検討する.既往の推計とは異なり,熟練・非熟練の別に加えて,中世日本に特徴的な銭払と米払という支払形態の別,および精銭とビタ銭が混在した銭市場をも検討の対象とし,とくに貨幣市場の変動とそれに影響された物価の動向が,どのようなインパクトを実質賃金水準に与えたのかをみる.通貨供給を渡来銭に依存していた中世日本では,15世紀から流通通貨の品質による銭の階層化が発生し,1560年代後半には大陸からの通貨供給が途絶して銭市場が混乱をしたが,この間,労働市場では2つのことが起きた.一つは貨幣賃金の底上げという長期的な変容,もう一つが16世紀後半に起きた米払賃金への切換という短期的な反応であり,どちらも熟練労働者にみられた現象であった.本稿では,それらの結果として生じた賃金格差の変化をも明示的に算出し,その変化と実質賃金水準の変動との間にはどのような関係がみられたのかを明らかにする.