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論文要旨

Vol. 71, No. 1, pp. 63-82 (2020)

『奈良時代における収入格差について』
高島 正憲 (関西学院大学経済学部・経済学研究科)

本稿の目的は,近代経済成長がはじまる以前の社会における収入格差の計測である.具体的には,奈良時代(8世紀)における律令農民と律令官人の各身分について,法令資料などの文献資料から「制度上の」収入を推計し,その格差の程度を測定する.推計の結果,律令農民については,律令国家より班給された田地・畠地からの収入があったものの,租などの土地への課税,庸・調や雑徭といった課役や出挙などの負担によって収入の3–4割弱を徴収されており,なかでも課役と出挙の負担率が高かったことがわかった.税負担がなかった律令官人については,収入によって上級貴族,中下級貴族,一般官人に階層が分かれ,とくに上級貴族の収入が格段に高く,律令官人内でも階層内格差があったこと,また一般官人では中央より地方で所得が高くなることを確認した.各身分間の比較では,律令農民と律令官人の間の収入格差は,貴族層に対しては極端に高かったが,一般官人との大きな格差は確認できなかった.推計結果は実収ではなく制度上の収入によるものであるが,そうした収入格差を生みだす制度を前提として古代律令国家は成立していた.