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論文要旨

Vol. 68, No. 3, pp. 250-263 (2017)

『経常収支にみられる構造的な変化 --インバウンドの実証分析--』
浦沢 聡士 (内閣府), 笠原 滝平 (大和総研)

我が国の対外的な経済取引の動向を表す経常収支の動きをみると,過去最高水準の貿易赤字を記録する一方,旅行収支が半世紀ぶりに黒字となるなど,近年,これまでと異なる動きがみられる.こうした動きは,我が国経済の対外的な稼ぎ方の変化を表すものと理解され,特に,最近では,訪日外客数や訪日外国人旅行者による旅行中の消費が過去最高となる中,いわゆるインバウンドへの関心・期待が高まっている. その一方で,最近の動きを含め,特に,我が国を主眼にインバウンドの動向を定量的に分析する研究は必ずしも多くない.なぜ,ここ数年で,訪日外客数がこれほどまでに増加したのか.また,訪日外客数の増加は,日本経済にプラスの影響を与えているのであろうか.本研究では,最近,特に増加が顕著である我が国のインバウンドの動向に焦点を当て,増加の背景や要因,我が国経済への影響について実証的に検証を行う.グローバル・パネルを用いたグラビティ・モデルによる検証の結果,訪問外客数の増加には,出発国の所得の増加が重要であることが示される中,我が国については,中間所得者層を中心に所得の増加が著しいアジア地域に近接することが寄与していることが示された.ビザの発給免除措置等を含む政府による誘致政策も,また,訪問外客数の増加にプラスの影響を与えていることが示唆された.加えて,時系列データを用い,我が国におけるインバウンドと経済成長の関係を検証した結果,訪日外客数の増加が経済成長率の押し上げに寄与していることが示された.特に,2013年以降,ビザ発給緩和措置や我が国の物価が相対的に割安となることなどを背景に,訪日外客数が大きく増加したことは,消費税率引上げ等の影響を受ける我が国経済の支えとなってきた.