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論文要旨

Vol. 68, No. 3, pp. 209-221 (2017)

『日本の企業貯蓄とISバランス』
祝迫 得夫 (一橋大学経済研究所)

本稿では,経常収支に関する貯蓄投資バランス論の立場から,日本の民間貯蓄のうち,特に企業貯蓄に焦点をあてて分析する.先行研究に基づいて,労働と資本の間の分配の変化が,企業貯蓄の変動につながっていたかを検証するため,近年の日本のデータについて労働分配率と企業貯蓄の関係を検証したところ,労働分配率に長期的な低下傾向は見られず,両変数の変動のタイミングも一致していないことが分かった.日本の企業貯蓄の高止まりは,主に民間の非金融法人企業部門の財産所得の動向,すなわち(1) 1900年代末から2000年代半ばにかけての負債の削減による金利支払いの低下,(2) リーマン・ショック後の一時的な配当支払いの減少,(3) 2010年代に入ってからの企業利潤の回復によって説明される.また法人企業統計の企業規模別データによる検証では,このような集計レベルでの労働分配率や企業貯蓄の変動が,主に大企業のこれらの変数の変動によって引き起こされていることが分かった.