HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 68, No. 2, pp. 150-168 (2017)

『わが国の所得税の控除が所得格差是正に与える影響 --配偶者控除見直しに関するマイクロ・シミュレーション分析--』
土居 丈朗 (慶應義塾大学経済学部)

本稿では,「平成29年度税制改正大綱」に盛り込まれた配偶者控除の見直しの影響や,わが国の所得税制において多用されている所得控除を税額控除化したときの所得格差是正効果を,マイクロ・シミュレーションの手法を用いて分析した.「日本家計パネル調査(JHPS)」の2014年調査を用い,標本を「国勢調査」の世帯構成に合わせて比推定している.今般の配偶者控除の見直しが所得格差に与える影響は,ごくわずかであることが明らかとなった.これは,配偶者控除の見直しが,所得控除のまま行われたことも影響していると考えられる.そこで,所得控除の税額控除化が所得格差に与える影響を考察した.人的控除のみを税額控除化しただけでは,等価世帯可処分所得のジニ係数の低下は小さく,給与所得控除と公的年金等控除といった所得計算上の控除までも廃して,人的控除として税額控除を設けると,ジニ係数がさらに低下することが確認された.さらに,女性の働き方に中立的な税制にすべく,「130万円の壁」による手取りの逆転現象を解消するような「社会保険料割引(仮称)」を導入し,税額控除化に加えて行うとどうなるかを分析したところ,ジニ係数がこれまでより大きく低下した.社会保険料割引は,就業調整を意識せずに済む仕組みとして検討したものだが,所得格差是正にも効果があることが明らかとなった.