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論文要旨

Vol. 68, No. 1, pp. 64-83 (2017)

『サーベイ調査におけるインフレ期待の不確実性の計測に関する一考察』
阿部 修人 (一橋大学経済研究所), 上野 有子 (内閣府)

インフレ期待は現代のマクロ経済学・経済政策における最重要変数の一つであるが,その計測に関しいまだ確立された手法は存在しない.特に,経済主体間でインフレ期待が異なる場合,それは単なる平均値の違いのみならず,分散など,分布そのものが主体間で異なる可能性がある.しかしながら,経済主体に対して,将来変数の分布の形状そのものを質問するサーベイは限られており,過去のインフレ期待調査の多くでは,点推定のみ調査されている.近年提案されたBinder (2015)の指標は,点推定の調査結果から,個々の主体レベルの分散の代理変数を推計するものであり,それが可能であれば,インフレ期待の分析は飛躍的に進展することが予測される.本稿では,独自サーベイを用い,Binderの提案した不確実性指標が,主観的確率に基づいて求められた個々人のインフレ期待の分散とどのような関係にあるか分析した.その結果,Binder指標と主観分散の相関は,他の要因をコントロールすると必ずしも強いとは言えないが,仮にあるインフレ期待調査結果で主観的確率に関する情報が取れない場合でも,Binder指標はインフレ期待の標準偏差を推計するのに有益であることが示された.但し,Binder指標が推計結果のパフォーマンスを大きく改善するわけではなく,その貢献は限られたものにとどまった.