HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 68, No. 1, pp. 1-14 (2017)

『公的介護制度改革と経済厚生 --人口成長率を内生化したモデルによる考察--』
伊藤 健宏 (岩手県立大学総合政策学部), 迫 一光 (高千穂大学人間科学部)

本稿は,公的介護制度が存在する経済の下,利用者負担率を変更することによって人口成長率,物的資本ストック,家族内介護の質,介護サービス事業者が供給する介護の質と価格,および経済厚生にどのような影響が生じるのかについて検討する.本稿で得られる結論は以下の通りである.公的介護制度の利用者負担率の軽減は,資本ストックを増加させ,人口成長率を減少させる.利用者負担率の軽減により人口成長率が減少するのでそれに伴い,家族内介護の質は劣化する.利用者負担率の軽減により介護サービス事業者の行う介護の質が向上するかどうかは,もとの利用者負担率の大きさに依存するが,介護サービス価格は必ず上昇する.経済厚生については次のような結論を得た.次世代の人口への関心の大きさ如何で,利用者負担率を軽減する場合と退職世代に負担を求める場合が望ましい二つの状況が存在することを示した.そして,そのいずれのケースにおいても制度が存在する場合の効用水準と制度が存在しない場合の効用水準の差がプラスで最も大きくなる最適な利用者負担率の値が一意に定まる.