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論文要旨

Vol. 67, No. 3, pp. 238-260 (2016)

『日本政策金融公庫との取引関係が企業パフォーマンスに与える効果の検証』
植杉 威一郎 (一橋大学経済研究所), 内田 浩史 (神戸大学大学院経営学研究科), 水杉 裕太 (株式会社SHIFT)

本稿では,日本政策金融公庫中小企業事業本部から貸出先企業に関する契約レベル・企業レベルデータの提供を受け,他の企業レベルデータと接合した上で,日本における中小企業向け政府系金融機関の貸出決定要因とその効果を,初めて定量的・包括的に検証した.得られた知見は以下の通りである.第1に貸出の決定要因についてみると,①公庫は,財務指標や独自に生産した情報を加えた内部格付に基づき,creditworthinessの高い企業に資金を供給している.②1990年代末や2008年のリーマンショック後など日本経済の低迷期においては,公庫は新規貸出先数を増やすのみならず,creditworthinessの高い企業に対して貸出をする傾向を弱め,counter-cyclicalな貸出行動をとっている.第2に公庫貸出の効果についてみると,①公庫利用企業では資金アベイラビリティが改善しており,設備投資と雇用が増加している.②公庫貸出が他の金融機関による貸出を促進するいわゆるカウベル効果と整合的な現象は,一部の時期だけで観察される.特にリーマンショック後には,他の金融機関の貸出は一時的に減少する.③利益率の変化や財務危機に陥る確率などを貸出開始後の3年間でみる限りにおいては,公庫貸出により企業パフォーマンスが改善するとの明確な結果は得られない.