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論文要旨

Vol. 67, No. 3, pp. 193-214 (2016)

『明治期経済成長の再検討 --産業構造,労働生産性と地域間格差--』
攝津 斉彦 (武蔵大学経済学部), Jean-Pascal Bassino (IAO, ENS Lyon, University of Lyon), 深尾 京司 (一橋大学経済研究所)

明治維新以後,日本は着実な経済成長を経験したが,その成長の初期段階は,試行錯誤を重ねながら,新しい技術や制度を日本に導入し適応させていく過程でもあった.現在広く利用されているGDP推計,すなわち大川一司らによる長期経済統計(LTES)シリーズは,基本的に推計の開始年を1885年に設定しており,それ以前の経済成長に関しては限られた情報しか提供していない.そのため,明治維新(1868年)から1885年にかけての日本の経済成長のイメージは,それ以後の期間と比較すると未だに不明瞭な点が多い.またLTESは,後述するように,製造業付加価値率の推計に問題がある.更には,日本の長期経済発展を他国と比較する際に用いられるMaddison (2001)の日本に関するGDPデータも,1885年以前の推計や太平洋戦争前後の接続法に問題がある.本論文では,Fukao et al. (2015)で推計された1874年,1890年,1909年の3つのベンチマーク年に関する産業別・都道府県別GDPならびに労働生産性のデータを出発点としながら,これを更に改良することにより,産業構造とGDPに関してLTESおよびMaddison推計に代わる長期系列を作成する.またこれを用いて,地域間格差の変化にも着目しながら,明治期の経済発展の過程に新たな光を当てる.