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論文要旨

Vol. 67, No. 2, pp. 107-124 (2016)

『信任関係の統一理論に向けて--倫理と法が重なる領域として--』
岩井 克人 (東京大学名誉教授・国際基督教大学)

信任関係とは「一方が他方の利益のみを目的とした仕事を信頼によって任される関係」である.例として,後見人/被後見人,信託受託者/受益者,取締役/会社,代理人/本人,医者/患者,弁護士/依頼人,資産運用者/投資家などがある.それは,相互の自己利益を目的とする契約関係とは対照的に,一方が他方の利益の為にのみ行動すべしという忠実義務によって維持される.この倫理的な義務を法的に課すのが信任法である.だが信任法にはまだ統一理論がない.本論文の目的は「自己契約は契約ではない」いう法原則を基礎に,その統一理論を提示することである.同時に,本論文では,倫理を法律で課すのは矛盾だという疑問に対し,信任法は被告の立証責任を原告の反証責任に,期待損失補償を不当利益吐出しに転換することで実践的に解決していること,倫理を法で置換しただけだという批判に対し,信任法の役割は悪人の制裁や迷える人の指針として倫理を補完することであることも示す.