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論文要旨

Vol. 66, No. 3, pp. 265-280 (2015)

『不動産価値と銀行貸出チャネル』
植杉 威一郎 (一橋大学経済研究所), 間 真実 (一橋大学大学院経済学研究科博士課程大学院生), 細野 薫 (学習院大学経済学部)

本稿は, 不動産市場が経済活動に影響を及ぼす経路である銀行貸出のチャネルに注目し, 不動産価格の変化が銀行貸出にもたらす影響を, リーマンショックの時期を含む2007年から2013年にかけての日本の銀行レベルデータと不動産取引価格に係る情報とを用いて明らかにする. 本稿の特徴は, 銀行に生じる不動産価格のショックが一様であると仮定するGan(2007b)とは異なり, 毎年2万地点以上について公表される公示地価情報を用い, 銀行にとっての取引先企業の立地を踏まえた不動産価格を計測した上で, その銀行貸出への影響を計測する点, 不動産価格が不動産関係貸出とそれ以外の貸出に及ぼす影響をそれぞれ観察して, 銀行貸出チャネルの経路をより詳細に理解する点にある.  得られた結果は以下のとおりである. 第1に, 不動産担保評価に広く用いられてきた公示地価に基づいて銀行が直面する不動産価格を算出すると, その上昇は, 銀行の自己資本比率を上昇させてその資金制約を緩和するだけでなく, 総貸出の増加をもたらす. この結果は, 銀行貸出チャネル仮説と整合的である. 第2に, 銀行が直面する不動産価格の上昇は, 不動産関係貸出を有意に増加させる一方で, それ以外の貸出を有意に増加させることはなく, 特に不動産担保を付けない貸出を限界的にではあるが減少させる. これらの結果は, 銀行が貸出ポートフォリオの中で不動産関係貸出とそれ以外の貸出を代替しているという仮説とは整合的である一方で, 不動産価格が下落すると不動産関係貸出は減少するという点で, 銀行による追い貸し仮説とは整合的ではない.