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論文要旨

Vol. 65, No. 4, pp. 318-331 (2014)

『潜在能力アプローチの再概念化 —選択機会・自律・アイデンティティ—』
後藤 玲子 (一橋大学経済研究所)

個人のケイパビリティは, 本人の利用可能な「資源」と「利用能力」のもとで, 可能となる「選択の実質的機会」として定義される. 本稿は, この個人のケイパビリティを, 選択との内在的関係に留意しながら同定する方法を探った. 分析結果は3点に集約される. 【1】諸機能の内在的価値を評価しうる「ケイパビリティ制約付き最適化モデル」は, 伝統的な「資源制約付き最適化モデル」とは異なる最適化条件をもたらす. 【2】ただし, 個人の選択を自律的・責任的要因と見なす限り, 前者もまた, 本人の選好評価から独立に, 本人が客観的に獲得できたはずのケイパビリティを政策的基礎とすべきだという議論を無条件に正当化するおそれがある. 【3】だが, 個人の選択には「個別主観性」と「位置主観性=客観性」の2側面があり, 後者に関しては, 自律と責任を無条件に仮定することはできない. 以上の分析を通じて, 本稿は, 個人の自律と責任, アイデンティティと自由に関する従来の研究に新たな知見を加えた.