HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 65, No. 3, pp. 250-264 (2014)

『「優良企業」の設備投資行動と企業統治 —財務体質と投資規模による異質性—』
中村 純一 (日本政策投資銀行設備投資研究所)

本稿では,いわゆる「ゾンビ企業」がリストラによって復活する傍ら,資源の再配分効果を通じた生産性向上が顕著には見られなかった2000年代後半の日本の優良企業の投資行動に注目し,その特徴の1つである過小投資と過大投資の共存を説明するため,q理論から展開される対数線形の投資関数に企業統治の影響を織り込み,さらにその影響度が財務体質(ネット有利子負債残高の水準)や投資規模(投資率)によって異なりうるという「異質性」を考慮した実証分析の枠組みを用いて分析した.その結果,1)「経営権の順当な継承」は有意に投資のキャッシュフロー感応度を高め(過大投資),2) その影響度は財務体質が良好で債権者による規律付けが働きにくいサンプルほど大きくなるが,3) ネット有利子負債残高がマイナス(実質無借金)でもマイナス幅の小さいサンプルに限ると,上記の効果が有意でない一方,グロスの有利子負債が投資を抑制すること,がわかった.3)のケースでは,同じエージェンシー問題を背景として生じた実質無借金状態を維持しようという強い動機が,1)や2)とは逆に過小投資をもたらしており,企業統治の影響には財務体質による異質性があると言える.また,「経営権の順当な継承」の一要素である相談役等の存在の影響には投資規模による異質性が認められ,投資関数の実証分析においてこうした異質性に着目することの重要性が示された.