開発途上国の家計は,集計的な経済ショックによってマイナス成長が生じた場合に,生活水準を顕著に低下させてしまう可能性が強い.コミュニティ動員型開発(community-based development: CBD)は,そのような場合に生活水準低下を緩和する効果があるのか,効果があるのはどのような条件の場合なのか? 本稿は,CBDを進めてきたパキスタンのNGOを事例に,3か年約600家計のパネルデータを用い,この問いを実証的に検討する.分析結果から,非メンバー家計と比較した場合に全体としては集計的ショックを緩和する効果がなかったことが判明した.ただし,同じ村内での非メンバー家計へのスピルオーバー効果ゆえに,メンバーがいない村との比較では集計的ショック緩和効果があった可能性も示唆された.また,ショック緩和効果が異質である可能性を考慮し,住民組織の特徴や活動分野を取り入れた分析からは,小規模インフラ建設型介入,マイクロクレジット供与の場合などに緩和効果が検出された.CBD型介入が集計的ショックの悪影響を緩和するかどうかは,介入の性格や,地域における市場の失敗との対応に依存する可能性が示唆される.