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論文要旨

Vol. 64, No. 2, pp. 175-189 (2013)

『近年の北米における離転職に関する実証的研究のサーベイ —データセットの視点から—』
神林 龍 (一橋大学経済研究所)

本稿では米国における離転職の実証研究を使用データの側面からまとめ,研究がデータセットの開発と並行して進展してきた様子を概観した.主に取り上げたのは1970年代に開発が始められた National Longitudinal Survey of Youth や Panel Study of Income Dynamics, The Pennsylvania Data といった世帯追跡調査や行政情報と,1984年に開始された世帯横断調査の Displaced Worker Survey である.加えて,2000年代以降になると Job Openings and Labor Turnover Survey や Longitudinal Employer-Household Dynamics program など労働需要側から離転職行動を考察するのに適したデータが開発されつつあることも紹介した.本稿で強調した点は,米国の世帯追跡調査としてはNLSやPSIDが著名だが,The Pennsylvania Data に象徴されるように早くも1960年代から行政情報を利用する努力が重ねられてきた点である.近年のLEHDプロジェクトは,これらの長い経験に基づいて行政情報を用いる利点と難点を精査することから始まっている.また,日本と異なり,全国的横断調査の整備は追跡調査開発の後塵を拝しており,横断調査から追跡調査へという一般的な感覚は離転職の研究には必ずしも当てはまらない.