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論文要旨

Vol. 62, No. 4, pp. 301-317 (2011)

『日本における名目賃金の硬直性(1993-2006)--疑似パネルデータを用いた接近--』
神林 龍 (一橋大学経済研究所・OECD)

本稿では、1993年から2007年にかけての賃金構造基本統計調査の個人票を常用雇用フルタイム被用者について疑似パネル化し、同一と目される被用者の年をまたいだ賃金変化率を計測し、賃金の硬直性の推移についてまとめた。その主要な結論は以下の通りである。第一に、日本においては基本給の額面調整という過程で確かに下方硬直性が認められるものの、労働市場で価格としての機能をはたす時間賃金では、所定内労働時間増加による調整の結果、それほど強い硬直性は観察されない。第二に、賃金の硬直性は、性別よりも、年齢に強く依存する。第三に、賃金の下方硬直性は1990年代および2000年代を通じて上昇傾向にある。とはいえ、この傾向の過半は賃金が硬直的な事業所が増えたことに依存しており、高齢化や長期勤続化の影響は必ずしも大きくはない。