1990年代後半以降,日本の貸出市場では,貸し渋りと追い貸しという二つの非効率性の問題が議論されてきた.瀬下・山崎(2004)は,債権者間で優先権が侵害される規定が日本の民法や倒産法に存在しており,このような優先権侵害があると,一見相反するように見える「追い貸し」と「貸し渋り」という銀行行動についての二つの仮説を整合的に説明できることを理論的に示している.
本稿では,銀行の貸出関数を推計し,この優先権侵害に基づく仮説とその対立仮説であるデット・オーバーハングに基づく貸し渋りの議論とを比較検証する.貸出関数におけるキャッシュ・フローの係数の符号に着目して,仮説を検証した結果,優先権侵害に基づく仮説と整合的な結果が得られた.これに対して,デット・オーバーハングに基づく説明を支持するような十分な結果は得られなかった.