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論文要旨

Vol. 61, No. 3, pp. 237-260 (2010)

『「失われた20年」の構造的原因』
金 榮愨 (専修大学経済学部), 深尾 京司 (一橋大学経済研究所), 牧野 達治 (一橋大学経済研究所)

2000年代に入り、不良債権やバランスシートの毀損がほぼ解決した後も、経済成長はあまり加速しなかった。本論文では長期的・構造的な視点から、この「失われた20年」の原因を探った。慢性的な需要不足の背景には、少子高齢化や長期的なTFP上昇の減速に伴い、70年代半ばから継続してきた貯蓄超過問題がある。日本は労働投入減少の割には堅調な資本蓄積を続けて来たのであり、更なる投資刺激よりは、経常収支黒字を他国に還流させ、円の騰貴を防ぐ施策や、近年進んだ企業貯蓄拡大の妥当性の検討が重要である。供給面では、労働投入減少を抑制するため、人的資本蓄積や働く機会の拡大が望まれる。なお、企業規模別に比較すると、大企業は90年代半ば以降、活発なR&Dや国際化により、80年代以上のTFP上昇を達成した。問題は、これら生産性の高い企業が市場シェア―を拡大するという新陳代謝機能が働かず、またR&Dや国際化に遅れた中小企業のTFPが停滞していることにある。