倒産処理法制を設計する上での重要なポイントの一つは,負債契約による平常時の企業経営者への規律付け機能と,業績悪化時の非効率な倒産処理先送りを抑制することとのトレード・オフの問題である.2000年4月の民事再生法施行に始まる倒産処理法制の改革では,倒産処理先送りによる非効率性を抑止し,早期の倒産手続き着手を促すインセンティブを経営者に与える改正が実施された.本論文で行った,年次財務データを用いた実証分析の結果によれば,一連の制度改革によって,早期の企業再建着手が促進された可能性が高いことが確認された.具体的には,民事再生法施行より前に法的手続きの申立を行った企業の場合,業績の落込みがあったタイミングから法的手続きに入るまで,平均的にみて5年程度の期間を要していたのに対し,民事再生法施行以降に法的手続きの申立を行った企業では,業績の落込みがあった翌年には,法的手続きに入る傾向があることが確認された.