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論文要旨

Vol. 61, No. 2, pp. 137-153 (2010)

『子ども手当導入に伴う家計への影響分析―JHPSを用いたマイクロ・シミュレーション―』
土居 丈朗 (慶應義塾大学経済学部)

本稿では,2009年1月に実施された慶應義塾大学パネル調査共同研究拠点「日本家計パネル調査(JHPS)」第1回調査で得られた2008年の世帯収入のデータを用いて,所得税制に関するマイクロ・シミュレーションを行った.JHPSのデータは,先行研究で用いられている厚生労働省「国民生活基礎調査」よりも,相対的に高所得で世帯人員が多い世帯が含まれている.このJHPSのデータを用いて,先行研究と同様の結果が得られるかを検証するとともに,2010年から導入予定の子ども手当にまつわる政策効果を,新たに分析した.
 分析の結果,現行の所得税制について,累進性があるとともに,所得控除によって課税ベースが小さくなっていることが確認された.所得控除により課税ベースから外れるのは当初収入の約7割と,先行研究よりも高い割合となった.また,各種人的控除の廃止の影響も分析した.
 次に,鳩山内閣が行う予定の子ども手当導入と扶養控除の一部廃止が各所得階層へ与える影響も分析した.その恩恵は,中低所得層に及ぶことを明らかにした.しかし,扶養控除の一部廃止に伴う所得税・住民税の負担増との比較において,子ども手当支給に必要な財源は十分に賄えないとの結果が示された.