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論文要旨

Vol. 61, No. 2, pp. 126-136 (2010)

『公的年金と子育て支援―出生率内生化モデルによる分析―』
小塩 隆士 (一橋大学経済研究所), 安岡 匡也 (北九州市立大学経済学部)

公的年金はいわば「親孝行の社会化」のための仕組みであり,その制度が充実すると老後の私的扶養を子供に期待する必要が弱まり,資本財としての子供に対する需要がその分減少する.それによって子供数が減少するとすれば,公的年金はその財政的な存立基盤を自ら弱めることになる.本稿では,公的年金に内在するこうした自己否定的な特徴を念頭に置いて,出生率を内生化するとともに,子供から親への所得移転を考慮に入れた単純な世代重複モデルに基づいて,公的年金の持続可能性を保証する方策の方向性を検討する.
 本稿の分析によれば,出生率の累積的低下を回避して公的年金を持続可能にするためには,公的年金の規模を一定の水準以下にとどめる必要がある.また,子育て支援の導入は公的年金の上限規模を引き上げ,個人の効用を高めることが期待できる.本稿ではさらに,公的年金と子育て支援の最適な組み合わせについても議論する.