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論文要旨

Vol. 60, No. 3, pp. 253-265 (2009)

『マルコフ・スイッチング・モデルを用いた日本の景気循環の計量分析』
渡部 敏明 (一橋大学経済研究所)

本稿では,1980年1月から2009年2月までの内閣府経済社会総合研究所の景気一致指数(CI)を用いて,日本の景気循環の構造変化について計量分析を行った.具体的には,CIの平均成長率が景気拡張期と後退期とで変化するマルコフ・スイッチング・モデルと,それにさらに構造変化点を付加し,景気拡張期と後退期の平均成長率および景気循環からの乖離である短期的な変動の分散が各構造変化点で変化するモデルを,マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)を用いてベイズ推定した.また,構造変化点の数の異なるモデルの中から周辺尤度によってモデル選択を行うことで,構造変化点の数と時期を特定化した.その結果,(1) 80年以降の日本の景気循環には構造変化点が2箇所あること,(2) それらはバブル崩壊後の1991年7月とリーマン・ブラザーズが破綻する直前の2008年7月である可能性が最も高いこと,(3) 前者の構造変化は,CIの景気拡張期,後退期の平均成長率をいずれも低下させ,後者の構造変化は,それらをさらに低下させたこと,(4) 短期的な変動の分散は変化していないこと,などが明らかになった.