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論文要旨

Vol. 59, No. 3, pp. 228-239 (2008)

『パネルデータにおける家計消費の変動要因―測定誤差とデータ集計期間に関する一考察―』
阿部 修人 (一橋大学経済研究所), 稲倉 典子 (日本経済研究センター)

標準的な家計消費モデルに従うと,家計消費は所得に比べてスムーズに変化し,その動きはランダムウォークに近くなる.しかしながら,各国のパネルデータに記録されている家計消費変化率の分散は所得変化率の分散よりも大きく,ランダムウォークよりもi. i. d. に近い挙動を示している.本論文では,消費データの不安定性が測定誤差によるものなのか,それとも調査期間が短いためであるかを検証した.分析の結果,測定誤差よりはむしろ,消費支出調査期間の短さが消費変動の主要因であるという結論を得た.Needs-Scan/Panelを用いた食料消費支出の分析では,家計消費がランダムウォークに近くなるのは四半期以上の長期間の集計期間を用いた場合であり,またその場合でも,長期保存可能な食料品への支出はランダムウォークよりもi. i. d. に近い挙動を示した.これは通常の一週間や一カ月の情報に基づく家計消費データでは,消費支出の平滑化やランダムウォーク性の検証を行うことが困難であることを示唆するものである.