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論文要旨

Vol. 59, No. 3, pp. 209-227 (2008)

『世帯の経済資源が出産・育児期における女性の心理的健康に与える影響について―「消費生活に関するパネル調査」を用いた実証分析―』
野口 晴子 (国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部)

本研究の目的は,「消費生活に関するパネル調査」(財団法人家計経済研究所)を用いて,世帯資産と所得を中心とした社会経済的状況が出産・育児期における女性の心理的健康に与える影響について実証的分析を行うことにある.
 動学同時決定パネル推定の結果,①世帯資産の変化率および世帯資産は,出産・育児期の女性の心理的健康状態に対して有意な影響がない; ②年間世帯所得の増加は心理的健康状態を有意に改善するが,効果は非常に小さい; ③推定モデルにかかわりなく,退職は女性の心理的健康状態に対してポジティブに,出産はネガティブに作用し,退職と出産の心理的健康尺度に与える効果の大きさは,世帯所得の効果よりもはるかに大きい; ④夫の親との同居は妻の心理的健康状態にネガティブに,夫の学歴の高さはポジティブに作用する,という結果を得た.
 以上の結果から,比較的若年層の女性の健康に対する効果は世帯の経済資源よりも非経済的要因の方が重要であり,現代社会で多様な役割を担っている女性にとって,就学前児童を抱えながらの就業継続が最も大きな心理的負担となっていることがわかった.