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論文要旨

Vol. 58, No. 1, pp. 1-14 (2007)

『傾斜生産方式の再検討』
香西 泰 (社団法人日本経済研究センター)

本稿では (1)傾斜生産の目標を市場機構の枠内で達成する可能性,(2)国家の経済統制に依拠する傾斜生産の効果の評価,の2点を中心に再検討する.(1)については民間企業間で石炭と鉄鋼の相互拡大を目指す交渉が進行していた事例は,課題の市場機構内解決の可能性を示唆するが,現実に国家統制に依る傾斜生産が採用された理由の一つに当時は世界的に貿易の戦時統制が残存し,特に石油の輸入が容易でなかったことがある点を主張する.(2)については配炭実績と工業統計表の石炭使用量との対照によって,消費財産業では石炭の闇取引が盛んであったことが示唆されるが,鉄鋼や化学では配炭実績の範囲で生産目標を達成しており,石炭割当は一応の効果を挙げたと見られる.さらに1947年の石炭購入単価の産業別格差や,鉄鋼の公定価格の対闇価格倍率からみて,戦後の窮乏経済では消費財需要に押されて生産財需要に限界があった可能性も考慮すべきであろう.