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論文要旨

Vol. 57, No. 2, pp. 97-109 (2006)

『1930年代はじめの社債有担化問題―政策決定における利害集団対立と政策思想―』
寺西 重郎 (一橋大学経済研究所)

1920年代以降の社債ディフォルトの頻発への対策としてわが国では,1920年代末から1930年代初頭にかけて社債を担保つきにする動きが進行した.これは同様な問題に直面したアメリカで証券法制定などによる企業情報開示の促進が対策の中心手段となったことと対照的である.有担化という手段がとられた理由として,高度成長期的な社債発行の割当に向けた政府介入の動きであるとする見方や,銀行対証券の産業間利害対立の枠組を用いて,special interest politics により既得権益者である銀行が証券や市場メカニズムを圧迫したとの見方などがある.本稿では,こうした見方がいずれも十分な根拠に基づくものではないことを明らかにする.代替的に,本稿では国内的には市場メカニズムの貫徹による経済体質の強化という目的でなされた金解禁がこの問題に深くかかわっていることを示唆する.すなわち金解禁実施に伴うデフレ・ショックの下で予想される社債ディフォルトの頻発に対して,あらかじめその処理コストを有担化によって引き下げておくというねらいがあったことが示唆される.