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論文要旨

Vol. 57, No. 2, pp. 165-187 (2006)

『移行国における年金改革』
西村 可明 (一橋大学経済研究所)

本稿の目的は,移行国の中で,主として中欧3ヵ国,ロシアおよびカザフスタンを対象にして,1990年代以降の年金改革の進展を概観し,移行国におけるこの改革の特徴を展望することにある.移行国が年金改革において直面している課題は,(1)社会主義の下での年金制度からの離脱,(2)移行経済不況に対する対応の一環としての年金改革,(3)老齢化対策の3点であり,共通しているにもかかわらず,改革結果としての新制度は実に多様であることが明らかにされる.その際,年金改革における中心的問題は,公的年金制度として義務的私的積立スキームを導入するか否かにあり,これを拒否する場合とそれを独立の一ピラーとして積極的に導入する場合とを両極として,中間的な諸形態が存在しており,その新制度の具体的特徴は,当該国の年金財政状況だけでなく,国際収支や財政収支及びこれと関連する世銀の働き掛けなどによって影響されていることが示される.そして移行経済の諸条件に対する義務的私的積立方式の適合性が検討される.