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論文要旨

Vol. 57, No. 2, pp. 121-135 (2006)

『東南アジアの工業化,直接投資と企業の資金調達』
三重野 文晴 (神戸大学大学院国際協力研究科)

本稿では,工業化過程における金融システムの問題を,東南アジアの金融システムの論脈とタイ,マレーシアの事例による実証分析によって仮説的に検討した.東南アジアの金融システムの特徴を踏まえると,実物部門と金融部門の関係の特徴として,工業化過程の資金供給における商業銀行の役割が限定的であること,外資系製造業企業では,その構造に対応して独自の資金調達手段を確保していること,これらの企業の直面する資金制約が地場の資本市場の利用の契機となっている可能性があることを指摘しうる.
 実証分析の結果,商業銀行貸出から製造業が疎外される傾向は明確ではないこと,外資系企業では,銀行借入と内部留保の間の代替性が観察される一方で,内部留保は設備投資の制約にはなっておらず,外資系企業に投資需要を越える内部留保が確保されている状況にあること,また負債は設備投資の重要な制約要因になっていること,などが確認された.